映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「パトリックとクジラ 6000日の絆」

人間はクジラを理解することができるのだろうか ——

博物館で実物大のシロナガスクジラのレプリカを見て「恐竜よりも大きな動物が、今、この時代に存在しているのだ」と衝撃を受け、「シロナガスクジラと一緒に泳ぐこと」を人生の目標に定めたカメラマン、パトリック・ダイクストラ。「パトリックとクジラ6000日の絆」は、憧憬の対象であるクジラたちを撮影し、その生態や感情を深く理解しようとし続けてきた彼の姿を追うドキュメンタリーだ。

ドミニカの海で特別な関係を結んだメスのマッコウクジラ、ドローレスとの再会をきっかけに企画され、動物学者でもあるマーク・フレッチャー監督が、パトリックが撮りためてきた膨大な映像も活用しながら完成させた。シロナガスクジラとの出会いを求めて始まったパトリックの旅は、いつしか海の生物全般へと広がり、集団を組んで行動するマッコウクジラたちとは数年にわたって関係を深めるに至った。映画を見ていて驚くのは、パトリックがタンクを背負わず、マスクとシュノーケルだけの装備でクジラに近づくこと。「クジラは呼吸用の装置があまり好きではないから」というのがその理由だが、海に漂う同じ「生き物」として相手を尊重し、辛抱強く静かにそばに居続けることで、他の誰にもできなかったような信頼を得ることができたのだろう。

青い海のなかで体を縦にして眠る姿、集団のなかで交わされる独特な音、何頭もが近づき、親愛の情を示し合う様子。「クジラも僕たち人間と同じように個性を持っている」というパトリックの目の前にいるクジラたちは、「マッコウクジラ」というカテゴリーではなく、意思と感情を持つ一頭一頭として存在している。クジラの大きな体に合わせて、大きなスクリーンで見ることをおすすめしたい。

文=佐藤結 制作=キネマ旬報社(『キネマ旬報』2025年8月号より転載)

「パトリックとクジラ 6000日の絆」

【あらすじ】

10代の頃にクジラに魅せられて以来、水中カメラマンとして世界中の海で撮影を続けてきたパトリック・ダイクストラ。ドミニカの海で出会ったメスのマッコウクジラと親密な交流をした彼は、彼女を「ドローレス」と呼ぶようになる。その後、イギリスの海岸で集団座礁によって命を落としたオスのマッコウクジラの姿を見たパトリックはある決意を固める。

【STAFF & CAST】

監督:マーク・フレッチャー
出演:パトリック・ダイクストラ、ドローレス(マッコウクジラ)、キャンオープナーと赤ちゃんホープ(マッコウクジラ) ほか

配給:キングレコード
2022年/オーストリア/72分/Gマーク
8月29日より全国にて順次公開
©Terra Mater Studios GmbH 2023
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