中国時代劇ファンタジーの神はなぜ恋をする?『与鳳行(よほうこう)』で考える仙侠ドラマの真髄

大ヒット作『楚喬伝~いばらに咲く花~』のチャオ・リーインとケニー・リンが再共演した『与鳳行(よほうこう)』はアクションとラブが絡み合うエンターテインメント大作。中国では平均視聴率がゴールデンタイム放送ドラマ1位を記録。配信でも各ランキング1位となる好成績を収めた話題作で、いよいよ日本でDVDの最終巻となるBOX3が12月3日に発売となる。まさに中国時代劇ファンタジーの決定版というべき本作の見どころを、物語のテーマにフォーカスして深掘りしてみたい。

ネット小説から生まれた『蒼蘭訣』に続く大ヒット仙侠ドラマ

武侠の世界観と道教に基づく神々や仙人たちの世界観が融合したファンタジーを描く『与鳳行』は、中国の一大人気ジャンルである仙侠ドラマの一つに数えられる。仙侠ドラマは日本でも『永遠の桃花~三生三世~』のヒットから認知度を上がり、近年では『陳情令』『蒼蘭訣~エターナル・ラブ~』をはじめ多くの作品が人気を獲得するようになった。そのほとんどがインターネット発のベストセラー小説から生まれているのも、中国ならではの傾向。『与鳳行』の原作者で脚本を担当したのは、先に挙げた『蒼蘭訣~エターナル・ラブ~』のほか、『招揺』、『馭鮫記』シリーズ、『護心~デスティニー・ラブ~』、『七時吉祥~エンドレス・ラブ~』と、ドラマ化作品が次々と日本上陸を果たしている売れっ子女流作家・九鷺非香だ。

1992年生まれの九鷺非香は大学生から小説を書き始め、現在すでにドラマ化されている作品が10作を超える。愛と運命をモチーフにしたファンタジーを得意とし、軽快な文体の中にも哲学的な視点を持ったストーリーが展開するドラマティックな物語世界が多くの読者の心を掴んでいる。また、彼女の描くヒロイン像は常に宿命に抗う強さを秘めた自立した女性であり、その点もドラマ化された際に特に女性視聴者から熱烈な支持が得られる理由。『与鳳行』はこうした九鷺非香作品の魅力が実感できる集大成というべき作品と言えるだろう。

戦う人生を選んだ強いヒロインが人間界で学ぶ“愛”という感情

『与鳳行』の舞台は仙界、霊界、人間界の3つからなるファンタジー世界。はるか昔、天地が誕生した時は、下界に人間界、上界に天域、その上に、人間や物を創造する上古神が住む天外天があった。やがて、天域では鳥獣が修行により人の姿になった霊族と、人間が修行して仙人と称するようになった仙族が土地を巡って争うようになり最終的に霊族と仙族は居住地を分け、天域に仙界、霊界ができた…。そんな世界観のなかで生きるヒロイン・沈璃は使命感に燃える霊界の将軍で、魔の力が封じ込められた一帯である墟天淵から霊族を守るために自ら戦う人生を選んだ。そして、墟天淵の脅威が増してきた今、霊界の防衛を固める手段として仙界との政略結婚が持ち上がり、彼女は望まぬ相手との婚姻を強いられる。だが、これに同意できない沈璃は逃亡、怪我を負って一時的に霊力を失い、本来の鳳凰の姿で人間界に落ちた結果、謎めいた書生・行雲の世話を受けることになる。

病弱な人間である行雲の生活は毎日働いて毎日ご飯を食べる、そんな単純で素朴なもの。贅沢はできないが居心地のいい住まいで、沈璃も彼と一緒に日向ぼっこを楽しみ、彼の手料理を食べる。それは、彼女が初めて体験する平和な暮らし。「ご飯だよ」という行雲の一言に安心感と癒しを与えられた沈璃は、脆い存在である人間の彼を守ることで、自分も同じく安心感と癒しを与えようとする。この気持ちはいったい何なのか? 彼女が養母や部下たちに向けてきたのとは違う“愛”の気持ちに気付くのが、2人の波瀾万丈なラブストーリーの始まりとなる。

人間界ではキジと間違われながらも尊大な態度を取り続ける誇り高き将軍の沈璃と、弱々しいが何があっても悠然としている行雲とのやり取りは、非常にウィットに富んでいて笑える場面がいっぱい。一方で2人が助けることになる人間たちの恋愛模様は抒情的に綴られ、沈璃がそこから情愛を学んでいく姿が真摯に描き出される。そんな喜怒哀楽のメリハリのある演出が作品に生き生きとした息吹きを与えているのも本作の持ち味。その後、霊界に戻った沈璃が行雲にそっくりな上古神・行止と出会ったことから、ヒロインが体験するロマンスはさらに深みを増し、物語は霊界と仙界を巻き込む正邪の戦いへと発展していくことになる。

人間の心を持つジレンマに揺れる孤独な“神”が憧れる人間世界

ここで仙侠ドラマに登場する神々について説明しておこう。仙侠ドラマの神々は神性と人間性を併せ持つ存在。自然法則を司る人格を持たない超越的存在である天道に従い神として世界を守り、間違いを犯せば天道から罰せられる。本作も天道が上古神(上古とは大昔の神話時代)を造り出し、上古神が三界(仙界・霊界・人間界)を守護しているという設定だ。

行止はかつては複数いた上古神の最後の1人。神とはいえ永遠の命を持つわけではない彼らの中で、ある者は寿命を全うし、ある者は天道の意に背いたために神格を失って人間界に堕とされ、天外天と呼ばれる上古神の住処に残っているのは今や行止だけ。孤独な彼は天道の道具として三界の“救世主”であらねばならない上古神としての生き方に疑問を感じ始めている。そして、沈璃に愛されて凍てついていた心が溶かされていく過程で、自分の存在意義についても考え始める。神の身と人間の心を同時に授けられた上古神は、感情を持たないことが要求されるのに情欲はある。神としての使命を全うするなら当然、人間のような情欲は捨てて自らを犠牲にしてでもこの世を救わなければならないが、一体なぜ天道は彼らにそれを与えたのだろうか? 

これはこの物語の大きな命題の一つであり、我々は最後にある答えを見つけることができる。同時に、この物語が神々のファンタジーを通して見せているのは、人間の在り方だということも痛感させられる。最新鋭のVFXで描かれた天上の世界は確かに魅惑的だ。だが、浙江省麗水市縉雲県にある仙都風景区でロケしたという大自然の美が映し出された人間界のほうが、はるかに心が落ち着く光に溢れた世界に見えるのは、平凡な人間の人生の中にこそ生きる価値が見つけられることを示唆しているからではないだろうか。この壮大なファンタジーが表現しているのはつまるところ “人間讃歌”。結末を見届けた後には、愛とは何か、人間とは何かを振り返って考えながら、温かい感動の余韻に浸れるはずだ。

文=小酒真由子 制作=キネマ旬報社

『与鳳行』

DVD-BOXの詳細情報はこちら

●DVD-BOX1(1話~14話収録)
10月8日発売(レンタルDVD同時リリース)
★封入特典★

ブックレット(8P)


●DVD-BOX2(15話~28話収録)
11月12日発売(レンタルDVD同時リリース)
★封入特典★
ブックレット(8P)

●DVD-BOX3(29話~39話+特典映像収録)
12月3日発売(レンタルDVD同時リリース)
★封入特典★
ブックレット(8P)
★特典映像★
チャオ・リーイン&ケニー・リン コメント、キャストインタビュー、オリジナルOP/ED、メイキング、日本版予告編、本国予告編ほか

※DVD-BOX:全3BOX/各17,600円(税込) 

●2024年/中国/全39話
●原作・脚本:ジウルーフェイシャン
●監督:ドン・コー
●出演:チャオ・リーイン、ケニー・リン、シン・ユンライ、ホー・ユー、リー・ジアチー

●発売元:ポニーキャニオン/ポリゴンマジック
●販売元:ポニーキャニオン

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