『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』発売記念 特別連載 驚きの「スター・ウォーズ」伝説こぼれ話 〈第2回〉
1979年3月5日にクランクインした世紀の傑作「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」。その壮絶な製作の裏側に迫る仏版コミック『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』が5月4日に発売決定! 世界中の「スター・ウォーズ」ファンに衝撃と感動を与え、ジョージ・ルーカス自身も絶賛した『ルーカス・ウォーズ』続編発売を記念し、「スター・ウォーズ」ファンならぜひ知っておきたい驚愕の裏話こぼれ話を『スター・ウォーズ論』 (NHK出版新書)などの著者、河原一久さんに連載いただく。誰かに話したくなるトリビア情報が満載!
第2回:「スター・ウォーズ」都市伝説はウソかマコトか?
“ゲイリー・カーツ神話崩壊”を語る前に知っておきたい…噂の真相
日本でも知られる「スター・ウォーズ」都市伝説
スター・ウォーズをめぐる「裏話」の類は映画の公開直後からもの凄い勢いで湧きだし、瞬く間に全世界へと広がっていった。そしてその噴流は以後も絶えることなくどこからともなく供給し続けられている。こうした〝裏話〟の多くはルーカスをはじめ、関係者による証言が元になっているため、その信憑性は「個人の見解です」という前提を踏まえたとしても、ある程度の信用がおけるものだ。
一方で、単なる噂話や、〝曲解された情報〟が一人歩きしたことである種の「都市伝説」にまでなってしまっているものもある。日本でも特に知られているものだと「ヨーダという名前は依田さんに由来する」とか、「ベイダーのマスクは伊達政宗の兜がモデル」といったものだ。前者の「依田さん」とは溝口健二作品の脚本家として知られる依田義賢氏のことで、この説は1999年にルーカスが来日した際、記者会見の席上で明確に否定されている。後者はさまざまなメディアが「知られざる真実!」と言ってよく報じられたことで定着してしまった都市伝説の典型だ。

「ベイダーのマスクは伊達政宗の兜がモデル」だった?
1997年、アメリカのスミソニアン博物館は「スター・ウォーズ」と神話との関連を掘り下げた特別展示「STAR WARS THE MAGIC OF MYTH」を開催した。この時、図録が作られ、そこでベイダーのコスチュームに関する記述があるのだが、日本の戦国時代の鎧兜からも影響を受けたという内容を紹介する上で、何らかの参考画像が必要となった。
そこでスミソニアンからルーカスフィルム経由で20世紀フォックスの極東支社に相談が行き、「ベイダーのマスクに雰囲気が似ている兜」を見繕って写真をアメリカに送った、というのが事の顛末だ。ベイダーのコスチュームのデザイン過程で日本の鎧武者の甲冑が参考になったことはあるが、マスクに関してはナチス兵士のヘルメットやマーベルの「ファンタスティック・フォー」に登場するドクター・ドゥームなどさまざまな参考元があったので、残念ながら「伊達政宗説」は紛れもない都市伝説なのである。
オビ=ワン・ケノービは「スター・ウォーズ」嫌い?
ファンが好んだ〝裏話〟としては、他に「オビ=ワン・ケノービは『スター・ウォーズ』が嫌い」という話がある。これはオビ=ワンを演じたアレック・ギネスが「スター・ウォーズ」の製作現場で感じたことなどや、その後のインタビューなどで厳しめのコメントをしたことから面白おかしく語り継がれていったものだ。実際にはギネスが嫌っていたのは「狂信的なファン」であって、ギネスのプライバシーもおかまいなく不躾なファンレターを送ってきたり、道で出会った子供らに追いかけ回されたり、といった体験が否定的なコメントとして語られただけだ。
また、エピソード4の撮影中に、もともとは映画の最後まで生き残るはずだったオビ=ワンが、途中で死ぬ設定になったと告げられて激怒した、というエピソードも有名だが、この場合もルーカスがその趣旨をじっくりと説明した上で、最終的にはギネスも納得した。「(死んで霊体になって続編にも出られるし)確かにその方が良いね」と答え、気持ちよく撮影を継続している。そして続く2本の続編への出演も熱望し、スケジュールを調整して出演したし、ギネスの盟友であるデビッド・リーンにもルーカスの監督としての手腕を褒め称えている。

暴露本『ルーカス帝国の興亡』の余波
しかし1997年に出版された暴露本『ルーカス帝国の興亡』には、「帝国の逆襲」当時の様子を語るギネスのこんな証言が掲載されている。
「彼は錚々たるスタッフを周りに従えていて、それが私を少し沈んだ気持ちにさせたんだ」
このギネスの発言を多くのファンは「ルーカスは周りを自分の意見に従うイエスマンだけで固め、気に入らない意見を言う者は排除するようになった」といった具合に解釈するようになった。だが、実際には状況はまるで逆だった。1979年9月5日、ギネスはオビ=ワン役として1日だけの撮影に臨んだ。前述したギネスの証言はこの撮影の日のことだそうだが、もし彼がこの頃のルーカスとその周辺のスタッフを見たのだとすると、実際にはかなり危機的な切羽詰まった面々だったはずだ。
その詳細について説明する前に、この「ルーカス帝国の興亡」という本について補足しておこう。この本はスター・ウォーズに関わった数多くの人々に取材して証言をまとめたものだが、本筋となる証言は「スター・ウォーズ」と「帝国の逆襲」でプロデューサーを務めたゲイリー・カーツによるものだ。だから最終的にシリーズの製作から外されたカーツの、いわば恨み節のような表現も随所に見られるし、彼にとって都合の悪い話は巧妙に伏せられてもいる。
だからこの本は「不正確な記述が多いゴシップ誌的な本」という評価もある本として有名であることを念頭に置くべきだが、ルーカス本人が沈黙守り続けたため、この本の記述がある程度「定説」として定着してしまい、それが結果的に「名プロデューサーをないがしろにした男ルーカス」というネガティブなイメージがコアなファンの一部で拡散してしまった原因になっている。

歴史的成功によって近づいてきた「金の亡者」
さて、当時のルーカスフィルムにおける財務状況をまず説明しよう。第1作の歴史的成功によって、ルーカスの周りにはいわゆる「金の亡者」のような連中がまとわりつくようになった。特に当初数人しかいなかったルーカスフィルムの従業員は数十人に膨れあがり、幹部クラスにはウォール街出身のエリートたちがいた。そしてこの連中は「スター・ウォーズ」がもたらした巨額の富を湯水のように使い、ファーストクラスで世界を飛び回り、5つ星ホテルに宿泊し、社用車と称してBMWやポルシェ、フェラーリ、ベンツなどを購入して乗り回したりしていた。
「帝国の逆襲」の製作準備だけでなく、ILMの再編、マーチャンダイジング管理会社の設立などルーカス自身が目まぐるしく働いている間に、こうした輩による搾取は続いていたというわけだ。もちろん、このような状況がいつまでも放置されるわけはなく、ルーカス自身はこれらの金の亡者たちを少しずつ排除していった。こうした状況においてゲイリー・カーツは、ルーカスと現場との間をうまく取り持って、映画を成功に導いた“功労者”として長年知られてきたし、『ルーカス帝国の興亡』でも巧妙にそうした印象づけが行われていた。(つづく)
執筆者プロフィール
河原一久(かわはら・かずひさ) 映像ディレクター・映画評論家。1965年生まれ、神奈川県出身。1991年より、テレビの情報番組でさまざまな話題を取材し続ける。日本における「スター・ウォーズ」研究の第一人者として、「スター・ウォーズエピソード1~6」の字幕監修を手がける。『ルーカス・ウォーズ』の監修を担当。

『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』
5月4日発売(キネマ旬報社刊)
4200円+税
© Éditions Deman 2023
■ご購入はキネマ旬報オンラインショップから⇒https://www.kinejunshop.com/items/141239991
