2025年 第99回キネマ旬報ベスト・テン 文化映画第2位/戦争末期に起きた悲劇を忘れない人々の言葉に耳を傾けるドキュメンタリー映画「黒川の女たち」

WEB KurokawanoOnnatachi_013552380.jpg

国策として送り出された「満洲」の地で経験した壮絶な出来事を、70年以上の時を経て語り始めた女性たち。「黒川の女たち」は、彼女たち自身の言葉と、その貴重な証言に心を動かされた人々の姿を伝えるドキュメンタリーだ。劇場公開時にも大きな話題を呼び、2025年 第99回キネマ旬報ベスト・テン 文化映画第2位に選出されたこの作品のDVDが6月26日(金)に発売される。「起こったことをいかに語り継ぐか」がますます重要な意味を持ち、今こそ見たい1本である。

戦争終結直前の「満洲」でなにが起きていたのか

WEB KurokawanoOnnatachi_004340100.jpg

日清戦争の勝利によって台湾を植民地とし、日露戦争の末に中国東北部の権益を得た日本。1931年には関東軍が同地で満洲事変を起こし、翌年、長春(当時の新京)を首都とする傀儡国家「満洲国」が建国された。同じ頃、日本国内では、農村部を中心に経済的困窮者が急増しており、困窮する人々に向けて、新天地「満洲」で生活再建を呼びかける「満蒙開拓団」の送出計画が進められていった。「黒川の女たち」では、この計画にしたがって岐阜県の山間にある白川町黒川から中国・吉林省へと渡った開拓団の一員だった女性たちの体験が語られていく。

連合国との戦争終結直前の1945年8月9日未明、ソビエト連邦と国境を接していた「満洲国」に日ソ中立条約を事実上踏みにじってソ連軍が侵攻を開始。開拓団を守るはずだった関東軍はいち早く南東部へと後退し、団員たちは、自分たちの土地を奪った日本人に厳しい目を向ける現地の人々とソ連軍の狭間に取り残されてしまう。そんななか、近隣の開拓団が集団自決に追い込まれたなどの情報を得た黒川開拓団の責任者たちは、ソ連兵たちに「接待」役の若い女性をあてがうことと引き換えに、ほかの団員たちの命と財産を守るという決断をする。

「ハマのドン」の松原文枝が監督

WEB KurokawanoOnnatachi_002332310.jpg

本作の監督を務めたのは、テレビ朝日のプロデューサーで、映画「ハマのドン」の監督でもある松原文枝。2018年8月、黒川開拓団で「性接待」を強いられた佐藤ハルエさんが自身の経験を証言したという新聞記事を読んで衝撃を受けた彼女は、当事者たちだけでなく、戦後世代としてその事実に対する責任を認め、後世に伝えようとする人々にも取材を重ね、2019年に『史実を刻む~語り継ぐ“戦争と性暴力”~』という番組を放送。その後も黒川開拓団関係者のもとに通い続け、「黒川の女たち」を完成させた。その歩みは「『なにかせねば』と思わされてしまうような女性たちと出会い、彼女たちに突き動かされているという感覚」だったという。時間をかけて対話を重ね、少しずつ信頼関係を築いていったことが映像からも伝わってくる。黒川の女性たちが故郷を離れて渡った「満洲」がどんな場所だったかについて解説する場面では、大竹しのぶが語りをつとめている。

長年隠されてきた悲劇を掘り起こす

WEB KurokawanoOnnatachi_010205210.jpg

黒川開拓団の幹部たちにうながされ、15人の未婚女性たちがソ連兵の「性接待」にあたったことは、当時、そこで暮らしていた人たちであれば誰もが知っていた。小学生だった安江菊美さんは、「性接待」に出る女性たちのために風呂を焚いた経験を語る。しかし、敗戦後、戻った故郷ではこの事実がタブー視されただけでなく、犠牲を強いられた女性たちを誹謗中傷する人たちもいたという。彼女たちを慰霊する「乙女の碑」にも、長い間説明文がなかった。2013年から佐藤ハルエや安江善子さんが証言活動を始めると、これを聞いて心を動かされた黒川開拓団遺族会会長の藤井宏之さんらが、悲劇を後世に伝える碑文を作成するために動き出す。

世代を超えてつながる女性たちの絆

WEB 佐藤ハルエ_1.jpg

映画のなかで佐藤ハルエさんは、かつて、「満洲」で出会った指導者から「戦争末期には女性たちが犠牲になるから覚悟しておきなさい」と言われたという。その言葉と数年後に彼女を襲った出来事は、世界各地で起きてきた戦争、今も続く戦争のなかで、女性たちがどんな経験をしてきたのかを想像させる。「起きたことをなかったことにはしていけない」という女性たちの命懸けの訴えが強く伝わってくる。一方、戦争を知る世代が次々と鬼籍に入っていく直前の世代の証言を記録した本作では、証言した女性たちの言葉と行動が次の世代へとつながっている様子がとらえられているところに希望が感じられる。

文=佐藤結 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)

WEB 『黒川の女たち』MX-747S.jpg

「黒川の女たち」

●6月26日(金)DVD発売
▶DVDの詳細情報はこちら

●DVD 価格:5,500円(税込)
【映像特典】
「歴史をつなぐ——映画、その後」、劇場予告編
【封入特典】
「乙女の碑」碑文(全文)リーフレット

●2025年/日本/本編99分+特典映像20分
●監督・プロデューサー:松原文枝
●プロデューサー:江口英明
●撮影:神谷潤、金森之雅、宮田武明、花山陽子
●編集:東樹大介
●語り:大竹しのぶ

●発売・販売元:マクザム
© テレビ朝日

ご案内