世界が再評価するイタリアン・ホラーの鬼才プピ・アヴァティが紡ぐ唯一無二の恐怖

『キネマ旬報』2026年8月号の巻頭特集は、《背筋が凍る、夏 怒涛のホラー映画特集》と題し、日本ホラー映画の系譜をたどっている。そこで『キネマ旬報WEB』では、紙幅の都合で紹介しきれなかったイタリアン・ホラーの世界に目を向けたい。

取り上げるのは、イタリアン・ホラーの鬼才プピ・アヴァティ監督の代表作であり、近年世界的な再評価が進む伝説のサイコ・ホラー「笑む窓のある家 4K修復版」(1976)と、ゾンビという題材を独創的なミステリーへと昇華させた異色作「ZEDER/死霊の復活祭」(1983)の2作品。いずれも長年カルト的人気を誇ってきた作品だが、4K修復版上映を機に新たな観客を獲得し、Blu-ray化によってその魅力に触れる機会も広がった。アヴァティの映像作家としての評価も世界的に高まりつつある。

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「笑む窓のある家」

狂気のフレスコ画家の謎を追う、伝説のサイコ・ホラー!

「笑む窓のある家 4K修復版」は、「ホステル」(2006年)のイーライ・ロス監督が絶賛し、英国映画協会(BFI)が2013年に発表した「イタリアン・ゴシックホラー10選」にも選出された一本。2025年にはカナダ・モントリオールで開催された第29回ファンタジア国際映画祭で4K修復版がワールドプレミア上映されるなど、製作から半世紀を経た現在、世界的な再評価が進んでいる。

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「笑む窓のある家」

北イタリアの寒村を訪れた絵画修復師ステファノは、教会の壁に描かれた『聖セバスティアヌスの殉教』を模したフレスコ画の修復を依頼される。作者は20年前に自殺した画家ブオノ・レニャーニ。“死に際を描く画家”と呼ばれた彼の作品を調べていた友人アントニオは、謎めいた言葉「笑む窓のある家」を残して何者かに殺害される。ステファノは、その言葉とフレスコ画の秘密に導かれるように、町に隠された恐るべき真相へと足を踏み入れていく。

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「笑む窓のある家」

全身に幾本ものナイフが突き刺さった人物を描く異様なフレスコ画、不気味な住民たち、そしてのどかな田園風景にじわじわと染み込んでいく不穏な空気。アヴァティはショッキングな残酷描写に頼るのではなく、静寂と違和感を積み重ねることで観客を底知れない恐怖へと誘う。日常風景がゆっくりと悪夢へ変貌していく演出こそ、本作最大の魅力だ。狂気の画家レニャーニをめぐる真実が明らかになる終盤からラストにかけては、イタリアン・ホラー史に残る衝撃が待ち受ける。

主人公ステファノを演じるのは、「悲しみの青春」(1970年)で知られるリノ・カポリオッキオ。彼を支える女性教師を演じたフランチェスカ・マルチャーノは、本作出演後に脚本家へ転身し、ナンニ・モレッティ監督「チネチッタで会いましょう」(2023年)などの脚本を手がけている。

死者が蘇る場所をめぐる、驚愕のミステリー・ホラー

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「ZEDER/死霊の復活祭」

「ZEDER/死霊の復活祭」は、スティーヴン・キングの小説『ペット・セマタリー』にも影響を与えたとされる作品。売れない小説家のステファノは、妻のアレッサンドラから中古のタイプライターをプレゼントされる。タイプライターに巻き取られていたインクリボンを調べると、そこには【Kゾーン】という言葉が書かれていた。ステファノは大学教授から、パオロ・ゼダーという人物が死者と接触できる場所【Kゾーン】を発見したと聞き、次の小説の題材にするため、彼のことを調べ始める。彼はタイプライターの前の持ち主であるコスタ神父を訪ねるが、手掛かりは得られない。やがてステファノは、【Kゾーン】が存在すると思われる場所にたどり着く。

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「ZEDER/死霊の復活祭」

冒頭は1950年代のパリに始まり、ゼダーの遺体が発見されるプロローグから、オカルト・ホラーの雰囲気が漂う。やがてゼダーの研究は、死者の復活という禁忌をめぐる陰謀へと結びついていく。死者がゾンビとして復活する【Kゾーン】の神秘と、その事実を解明しようとする科学的なアプローチを融合させ、独特の雰囲気を作り出している作品だ。ステファノを演じたのは、「スキャンダラス・鏡の中の背徳」(1985年)や「ベレッタの女/最後の誘惑」(1986年)では監督・脚本も手掛けた多彩な俳優ガブリエレ・ラヴィアで、ここでは妻の制止も聞かずに【Kゾーン】の謎にのめり込んでいく、妄念にとらわれた男を熱演している。

イタリアン・ホラー黄金期の一人、プピ・アヴァティ監督

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「ZEDER/死霊の復活祭」

プピ・アヴァティ監督は、老女が少女時代を回想していく人間ドラマ「追憶の旅」(1983年)以降は、青春映画やコメディ、音楽家の伝記など様々なジャンルの作品を発表したが、ホラー映画も並行して作り続けている、イタリア映画界の重鎮。イタリア映画では、1950年代後半からマリオ・バーヴァ監督の「血塗られた墓標」(1960年)などに代表されるゴシックホラーやジャッロと呼ばれるサイコ・ホラーが、世界的に脚光を浴びた。1970年代には色彩美豊かな映像とゴブリンによるプログレッシブ・ロックの音楽が印象的な「サスペリア」(1977年)などのダリオ・アルジェント監督、また「サンゲリア」(1979年)や「ビヨンド」(1981年)といった作品の残酷描写で注目を浴びたルチオ・フルチ監督など、1980年代までにホラー映画の黄金期を築いていった。プピ・アヴァティ監督も、その時代に頭角を現した才能の一人。

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「ZEDER/死霊の復活祭」

プピ・アヴァティ監督の2作品を観ると、どちらもミステリーの趣が色濃く、主人公は自ら怪異の真相を追い、その核心へと踏み込んでいく。一般的なホラー映画では主人公は怪異に巻き込まれる受け身の存在として描かれることが多いが、アヴァティ作品では、その能動的な探求そのものが恐怖への入り口となる。その過程で浮かび上がるのは、土地に根付いた伝承や人々の記憶が育んだ得体の知れない恐怖である。モンスターや殺人鬼が襲いかかる瞬間の恐怖を前面に押し出す作品とは異なり、アヴァティが描くのは、我々の知らない場所に古くから受け継がれてきた恐怖が今も息づいている――そんな感覚である。幼いころから民話や伝承を聞いて育ったというアヴァティ。その原体験が、狂気の画家や【Kゾーン】といった独創的な恐怖のイメージを生み出したのだ。

「笑む窓のある家 4K修復版」には、約42分の特典映像を収録!

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「笑む窓のある家」

また今回の「笑む窓のある家 4K修復版」Blu-rayには、約42分に及ぶ充実の特典映像を収録。監督と弟で共同脚本家のアントニオ・アヴァティ、音楽を担当したアメデオ・トンマージ、主演リノ・カポリッキオ、コッポラ役のジャンニ・カヴィーナらが撮影当時を振り返るインタビュードキュメンタリー『カルト映画の25年』(2002年)をはじめ、2012年収録のプピ・アヴァティ監督インタビュー、ロビーカードギャラリー、オリジナル版予告編、2025年公開時の日本版予告編を収録。「ZEDER/死霊の復活祭」には日本版の予告編を収録。イタリアン・ホラー黄金期を彩った異色の2作品。世界的な再評価が進む今だからこそ、プピ・アヴァティが紡ぎ上げた唯一無二の恐怖世界を堪能してほしい。

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)

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「笑む窓のある家 4K修復版」
●6月26日(金)発売
●Blu-ray 価格:6,380円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像
★映像特典★
・“25年目のカルト映画”:製作25周年を記念して2002年に作られたインタビュードキュメンタリー
・プピ・アヴァティ監督インタビュー映像[2012年収録]
・ロビーカード・ギャラリー[動画形式]
・予告編集[オリジナルイタリア版/日本版]

●スタッフ
監督・脚本:プピ・アヴァティ
製作:アントニオ・アヴァティ、ジャンニ・ミネルヴィーニ
脚本:アントニオ・アヴァティ、ジャンニ・カヴィーナ、マウリツィオ・コンスタンツォ
撮影:パスクァーレ・ラキーニ
音楽:アマデオ・トンマーゾ

●出演
ステファノ・・・リノ・カポリッチオ
フランチェスカ・・・フランチェスカ・マルチャーノ
コッポラ・・・ジャンニ・カヴィーナ
アントニオ・マッツァ・・・ジュリオ・ピッツィラーニ
女教師・・・ヴァンナ・ブゾーニ
巡査・・・フェルディナンド・オルランディ
ソルミ・・・ボブ・トネッリ
リディオ・・・ピエトロ・ブランビッラ
神父・・・ユージン・ウォルター

発売元:是空/TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
©1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

▶Blu-rayの詳細情報はこちら

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「ZEDER ゼダー/死霊の復活祭」
●6月26日(金)発売
●Blu-ray 価格:6,380円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像
★映像特典★
・日本版予告編

●スタッフ
監督・脚本:プピ・アヴァティ 
脚本:マウリツィオ・コスタンツォ、アントニオ・アヴァティ
撮影:フランコ・デッリ・コッリ
音楽:リズ・オルトラーニ

●出演
ステファノ・・・ガブリエル・ラヴィア
アレッサンドラ・・・アン・キャノヴァス
ガブリエッラ・グッドマン・・・パオラ・タンジアーニ
メイヤー博士・・・チェザーレ・バルベッティ
小人の紳士・・・ボブ・トネッリ
偽ルイジ神父・・・フェルディナンド・オルランディ
ミルコ・・・エネア・フェラリオ
ケージ教授・・・ジョン・ステイシー

発売元:是空/TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
©1983 A.M.A. Film s.r.l.

▶Blu-rayの詳細情報はこちら

キネマ旬報 2026年8月号
7月17日(金)
定価1320円(税込)

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巻頭特集
背筋が凍る、夏 怒涛のホラー映画特集


猛暑の夏には怖い映画がよく似合う。日本映画だけでも「NEW GROUP」「氷血」「口に関するアンケート」「チルド」「だぁれかさんとアソぼ?」「5秒で完全犯罪を生成する方法」など、ホラー映画が目白押し。そこで「呪怨」によって日本のホラー映画を世界ブランドに押し上げハリウッド版も自ら監督、20年以上にわたってホラーを撮り続け新作2作も待機する清水崇監督にロングインタビューを実施。さらに清水監督が審査委員長を務めるホラー映画大賞などで頭角を現した新世代の監督たちにスポットを当てながら、古くから続く日本のホラー映画の系譜を辿る。

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