"ダメ兄"を見送る4日間──中野量太監督が描く、家族のかたち:映画「兄を持ち運べるサイズに」

「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)で日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞に輝いた中野量太監督。10年ぶりのオリジナル脚本となる日仏共同製作映画「私はあなたを知らない、」が8月28日に公開される。それに先立ち、前作「兄を持ち運べるサイズに」のBlu-ray&DVDが7月29日に発売される(レンタルDVD同時リリース)。
特典映像からは、これまで様々な“家族の在り方”を見つめてきた監督が役者たちに愛され、日本映画界に必要とされる理由が見えてきた。
作家・村井理子のノンフィクションエッセイ『兄の終い』を映像化

本作は、長らく疎遠になっていた兄(オダギリジョー)の急死を知り東北へ向かった妹・理子(柴咲コウ)が、彼の“人生の後始末”をする4日間を描いた物語だ。兄の元嫁・加奈子(満島ひかり)やその娘・満里奈(青山姫乃)、兄と暮らしており現在は一時的に児童相談所に保護されている息子・良一(味元耀大)との再会や対話を経て、理子はこれまで心の中にため込んできた“ダメ兄”への感情を解放、変化させていく。
「メゾン・ド・ヒミコ」(2005)以来の共演となった柴咲コウとオダギリジョーが、しっかり者でいつも兄の尻拭いばかりさせられてきた妹と、ちゃらんぽらんなくせに母親からの愛情はしっかり受けてきた兄を好演。「血がつながっているからといって近いわけじゃない」と柴咲が語るとおり、どこかドライでいびつ、しかし完全に縁を断ち切ることもできない“家族”という存在の妙を巧みに演じている。
理子や加奈子、子どもたちの前に、それぞれが思い描く“幻”となって現れる兄がファンタジックであり、泣き笑いポイントでもある本作。家族とは、人間とは、なんて多面的で底知れない存在なのか。理子たち家族の姿を観ながら、きっと自分の家族を思い浮かべる人は多いだろう。正解のカタチも、正解の感情もない。胸の奥にふっと沸き上がった家族への思いこそ、あなたの正直な、あなただけの“家族のカタチ”なのだから。
唯一無二の“家族”を描き続けてきた映画監督・中野量太

京都産業大学卒業後、日本映画学校に進学し、3年間映画について学んだ中野監督は、映画やTVの助監督、ディレクター業などを経て2012年、初の長編映画「チチを撮りに」を手掛ける。本作は第63回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に正式出品されたほか、第5回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第23回日本映画批評家大賞新人監督賞などを受賞。その確かな才能は、4年後に発表した商業映画デビュー作「湯を沸かすほどの熱い愛」で一気に注目を浴びることとなる。
宮沢りえが主演を務めたこの作品は、突然余命宣告をされた双葉(宮沢)が、失踪した夫(オダギリジョー)の捜索と経営する銭湯の立て直し、優しすぎる娘(杉咲花)の独り立ちなど、気がかりな家族の問題を解決しようと動き出すヒューマンドラマだ。こちらも第40回日本アカデミー賞で6部門を受賞し、第38回ヨコハマ映画祭で3冠を達成。“映画監督・中野量太”の存在と実力が日本映画界に認められた瞬間だった。
続く「長いお別れ」(2019)では、認知症を患った父と家族の10年間の軌跡を、「浅田家!」(2020)では、写真家・浅田政志とその一風変わった家族の物語を撮り上げた。かたちは違えども、いずれも家族を描いた物語で、その手腕は続く「兄を持ち運べるサイズに」でも遺憾なく発揮される。
豪華版Blu-rayには充実のメイキング映像を収録!

理子と加奈子が7年ぶりの再会を果たすシーンから、理子が警察から兄の急死を電話で知らされる自宅のシーンのクランクアップまで、「兄を持ち運べるサイズに」豪華版Blu-rayには、あらゆる場面の裏側を映したメイキング映像を収録。
原作『兄の終い』に登場する"本物の兄ちゃん"が住んでいた宮城県多賀城市で撮影を敢行。物語の舞台となった時期に実際に使用されていたゴミ収集車も登場し、理子たちが"兄ちゃんのゴミ"を捨てたゴミ処理施設でもロケを行った。実際の写真をもとに再現された“本物の兄ちゃん”が住んでいたアパート内部の散乱したゴミや吊るされた洗濯物など、細部にまで及ぶ再現性にも目を引かれる。さらに、当時“本物の兄ちゃん”を担当していた市の職員・早坂省吾さんから、その人となりを監督や柴咲が熱心に聞く映像も収められている。徹底したリアリティーへのこだわりが随所に感じられる。
役者やスタッフたちから愛される監督の“正直さ”

オダギリジョー曰く、「本(脚本)が良かったので、あまりアドリブは足さないように台本のまんま演じた」。脚本を自ら手掛けた監督も、「誰もが人生で経験するであろう身近な話を、リアルかつ、映像でしか表現できない奇想天外な方法で描いています」とコメントしている。脚本に監督自身のビジョンが明確に息づいているからこそ、俳優たちはその世界観を共有し、スタッフも迷いなく作品づくりに向き合える。
本編ではほぼカットされてしまった(!)オダギリジョー作詞&ギターの“幻の歌”が存在したことや、警察署の職員を演じた吹越満が話しながらずり落ちてきたメガネを直す仕草も監督の演出だったこと、監督に撮影2日前にオファーされ急きょ出演することになった芸人・桐野安生(監督の同級生)のエピソードなど、メイキングからは映画監督として“撮りたいもの”にまっすぐで“正直な”監督の人となりが伝わってくる。そんな監督と撮影を共にした満島ひかりも、「全て撮りきったときの(監督の)“ドヤ顔”が忘れられない」と笑って振り返る。
その他、映像特典には「プレミア上映会」「公開初日」の舞台挨拶、予告編集も収録されている。本編だけでは見えなかった中野監督の演出術や俳優たちとの信頼関係は、メイキングを通してより鮮明に浮かび上がる。作品と特典映像をあわせて観ることで、「兄を持ち運べるサイズに」が描こうとした"家族"という存在を、より深く味わえるはずだ。ぜひ本編と共に楽しんでみてほしい。
文=原真利子 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)

「兄を持ち運べるサイズに」
●7月29日(水)Blu-ray&DVD発売
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●豪華版Blu-ray 価格:6,050円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像(=分)
★映像特典★
・メイキング
・舞台挨拶映像(プレミア上映会/公開初日)
・予告編集
●通常版DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編(DVD)
★特典映像★
・予告編集
●2025年/日本/本編127分
●脚本・監督:中野量太
●原作:『兄の終い』 村井理子(CEメディアハウス刊)
●音楽:世武裕子
●出演:柴咲コウ
オダギリジョー 満島ひかり
青山姫乃 味元耀大
斉藤陽一郎 岩瀬亮 浦井のりひろ(男性ブランコ) 足立智充 村川絵梨
不破万作 吹越満
●発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:TCエンタテインメント
© 2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
