「マイ・プライベート・アイダホ」「ドラッグストア・カウボーイ」デジタルリマスター版公開記念 ガス・ヴァン・サント[監督]インタビュー

7月17日に公開された新作「デッドマンズ・ワイヤー」に続き、初期の珠玉の名作2作品――「マイ・プライベート・アイダホ」が8月7日、「ドラッグストア・カウボーイ」が9月18日、デジタルリマスター版として連続上映されるガス・ヴァン・サント監督。改めて、再評価が高まるヴァン・サント監督に、初期作品についてインタビューを実施。改めてその作家性に迫る。

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作品に描かれる男性同士の関係性の原点は“旅”!?

──「マイ・プライベート・アイダホ」(91)の男娼と市長の息子、最新作「デッドマンズ・ワイヤー」(25)の誘拐犯と社長の息子は、一種の相似関係にあるかのように見えます。あなたの映画では、主人公にとってのオルターエゴのような存在が繰り返し登場します。そのような男性同士の関係性になぜ惹かれますか。

ガス・ヴァン・サント(以下GVS):私の映画は、偶然の出会いから友情や家族のようなものを築いていく人々をこれまで描いてきたと思う。ただ、私自身はそのことをいつも意図してきたわけではなく、結果的に男性同士の関係の映画になってきました。同時に、それらは旅についての映画でもありますが、それは私が男性の友人たちと多く旅をしてきたことが反映されているのだと思います。

──「ドラッグストア・カウボーイ」(89)でも「マイ・プライベート・アイダホ」でも社会に適応できない少年は、擬似家族的な集団の中に居場所を見つけ、そこでメンターや師を見出します。映画の中で師弟あるいは父子を描くことへの関心について教えてください。「デッドマンズ・ワイヤー」も父子の関係が誘拐事件の背景にありました。

GVS:そういった関係性は、私のすべての映画に存在しています。どういうわけか物語の見せ方や内容から生まれてきてしまうのです。そこには、私が観てきた舞台や映画、そしてバンドからの影響があると思う。ロックバンドには、面白い人、賢い人、冒険好きな人、慎重な人などが混合していますよね。

“死の三部作”へ発展したテーマ「彷徨(さまよ)い」と「死」

──どちらの映画でも突発的な死が現れますね。2作における「彷徨い」と「死」というテーマは、後に“死の三部作”へと発展し、あなたはステディカムのロングテイクを作品内に取り入れていきます。なぜこのテーマに執着し、より観察的なスタイルに変化していったのでしょうか。

GVS:“死の三部作”の3本は、すべて実際の事件やジャーナリスティックな記事に基づいていました。そのうち2本は非常にセンセーショナルな題材でした。ひとつはコロンバイン高校銃乱射事件(「エレファント」03)、もうひとつはカート・コバーンの死(「ラストデイズ」05)です。


残る1本である「ジェリー」(02)は、それほど有名ではありませんが、ボストンの若者たちが起こした出来事が基になっています。その事件は裁判となり、後に本も出版されました。ちょうどボストンの新聞に載ったばかりの頃、ケイシー・アフレックも同席していた夕食の席で何か一緒に作ろうと話していたときに、マット・デイモンから持ち出されたアイデアでした。そういった経緯で2000年頃にこの題材に関心を抱きました。

一方で、カート・コバーンの死についてはもっと前、1994年か95年頃には、彼の死を題材にした映画を作ろうと考えていました。それは、当時、何が起きたのかさまざまな方向から情報や憶測が飛び交うほど過熱していたニュースや調査報道への一種の応答でもありました。


その後に続いたのがコロンバインでした。これもまた膨大な報道と調査の対象になった事件でした。その両方の事件について私が感じていたのは、映画的な、あるいは芸術的な探求が欠けているということでした。そうした探求は可能なはずだと考え、映画を通して実践したのです。当時は、ジャーナリズムが明らかにエンタテインメントの一部になり始め、逆に、エンタテインメントはジャーナリズムの一部になり始めていた。ケーブルテレビなどの影響もあり、90年代はメディア報道の量が急増していてましたからね。

なので、“死の三部作”は順番的には本来は「ジェリー」が最後の企画だったのですが、結果として、私たちは逆順で作ることになりました。それは主に、人々がその企画にどれだけ乗ってくれるか、つまり資金調達の問題があったからです。「ジェリー」は外部資金ではなく、私自身のお金で製作したので、最初に完成することができました。


その後しばらく時間が経って、カート・コバーンの件やコロンバインの件に対する世間の緊張や社会的な敏感さも少し和らいでくると、人々もこれらの題材の映画に関心を示すようになりました。コロンバインについての映画を作ろうとして資金提供者を探していた頃は、事件がまだあまりにも新しすぎた。メディア企業やテレビ局は、自分たちの刑事ドラマなどに悪影響が出ることを恐れて、そうした企画に関わろうとしなかったのです。

物語に持ち込まれたドキュメンタリーのような質感

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──特に“死の三部作”であなたはセミドキュメンタリー、そしてその時代の時間感覚を探究することに取り組んでいますね。「ドラッグストア・カウボーイ」も「マイ・プライベート・アイダホ」もホームムービーを思わせる場面が挿入されますが、あなたにとってドキュメンタリーのような質感を物語に持ち込むことはどのような意味を持ちますか。
「デッドマンズ・ワイヤー」でもサスペンスよりも膠着状態の停滞した時間が前景化し、最後に実際の事件映像が挿入されています。

GVS:確かに「マイ・プライベート・アイダホ」には少しフェイク・ドキュメンタリー的な部分があり、「ドラッグストア・カウボーイ」には彼らが撮っているホームムービーが含まれている。作り物の一部としてそういう要素を導入しました。


一方で、「デッドマンズ・ワイヤー」で既存の映像を使ったのは編集者の選択でした。この物語は、脚本家のオースティン・コロドニーがコロナ禍に観たドキュメンタリーや記事を参考にしながら書いたのですが、当時の映像資料がたくさんあった。私自身の選択ではなかったし、脚本で指定されていたわけでもなかったのですが、そこで編集者が試しに入れてみたところ、私たちも気に入ったので続けてもらったのです。

「ラストデイズ」の世界にも使える資料はたくさんありましたが、そのときは編集上の発想にはありませんでした。ただ、以前にも既存の映像を用いたことはありました。「ミルク」(08)の場合は、1970年代のカストロ地区の空気感を見せたかったので、それを再現するより、実際の映像を使うほうが簡単だと判断したのです。本物の映像には、抗いがたい魅力があります。

繰り返され作品に挿入される“早送りの「雲」”

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──「ドラッグストア・カウボーイ」でも「マイ・プライベート・アイダホ」でも雲が早送りで流れるイメージが劇中で挿入されますが、それは「エレファント」の冒頭をはじめ、あなたの映画の中で繰り返される特徴的な風景となっています。「デッドマンズ・ワイヤー」も主人公が籠城するビルの端を流れる雲を眺める場面から始まりますね。漂流する人物を追ううえで、なぜこのようなイメージに魅了されているのでしょうか。

GVS:それは実は、かなり初期の頃から始めた試みです。「マイ・プライベート・アイダホ」の撮影監督で「マラノーチェ」(85)の一部も撮影したエリック・エドワーズと私は、高校時代に映画を一緒に作っていて、そのときからすでにタイムラプス撮影を使っていました。16ミリカメラで1コマずつ撮ることができたので、そういう実験をしていたのです。

それから「マラノーチェ」の準備時期に、ヴェルナー・ヘルツォークの「ガラスの心」(76)を観た影響もありました。その冒頭で山の上を霧がまるで川のように流れていくのがタイムラプスで撮られていて、それを取り入れたいと思ったのです。最初の長篇映画を作るためにお金を貯めていた2年間の時期に、私は絵コンテと脚本を書き続けていた傍ら、ヘルツォークの映画以外にも、公共テレビのドキュメンタリー番組などでもタイムラプス映像をたくさん目にしました。そうしたものが、撮影前の創作的なインスピレーションの時期に私の中へ入ってきたのです。仰る通り、その興味はその後も「マイ・プライベート・アイダホ」「ドラッグストア・カウボーイ」と続きました。「ジェリー」にもタイムラプスが使われています。

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特に「マイ・プライベート・アイダホ」の場合は、エリックが35ミリを1コマ撮影専用に自ら改造したカメラでタイムラプスを撮ったので、面白い経験でした。車のワイパーの仕組みのような自作の装置で、小さなモーターをカメラに取り付けて、一定間隔ごとに1コマずつ撮影できるようにしたのです。彼は、ロケハンからそのカメラを持参していて、冒頭に出てくる映像は、そのときに撮られたものです。本篇で実際に撮影したのと同じ場所で、本撮影の数か月前に撮られました。その映像は、映画祭で資金集めをするための予告編にも用いました。つまり、それ自体が「マイ・プライベート・アイダホ」の準備作業の一部になっていたのです。


そして本撮影が始まってからも、私たちはタイムラプスを撮り続けました。ロケで移動しているときでも、インターバロメーターを野原に設置して、納屋などを延々と撮影していたのです。毎日のラッシュ上映で大量に撮ったそれを見ては、どこか魔法のようなその映像に私たちは魅了され、みんな本当に気に入っていました。


でも、やがてプロデューサーのローリー・パーカーが、「確かに魔法みたいで素晴らしいけれど、一体何のために撮っているの?」と聞いてきました。何に使えるかを実は全く考えていなかった私たちは、「まだわからない」と答えるしかありませんでした。ところが、最終的に気づいたのです。リヴァー・フェニックス演じる主人公が眠りに落ちる場面で、何か夢のような映像が必要だと。そこで、「ああ、タイムラプスが使えるじゃないか」と思い至りました。すると突然、それまで何となく撮り溜めていた映像にとても重要な意味が生まれたのです。

(取材・文=常川拓也)

※新作「デッドマンズ・ワイヤー」を含めたガス・ヴァン・サント特集は現在発売中の『キネマ旬報』8月号にて掲載しています。こちらも併せてご覧ください。

ガス・ヴァン・サント
Gus Van Sant/1952年生まれ、米ケンタッキー州出身。CF製作の仕事に従事し、一時期ロジャー・コーマンの元で助手として働いていたこともある。86年「マラノーチェ」で長篇監督デビュー。続く「ドラッグストア・カウボーイ」(89)でNYとLAの批評家協会賞最優秀脚本賞を受賞し注目を集める。「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(97)ではアカデミー賞作品賞、監督賞はじめ10部門にノミネート。「エレファント」(03)ではカンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)と監督賞を受賞する。「ミルク」(08)ではアカデミー賞8部門、2度目の監督賞にノミネートされた。



「マイ・プライベート・アイダホ デジタルリマスター版」
My Own Private Idaho
1991年・アメリカ・104分
監督・脚本:ガス・ヴァン・サント 原作:ウィリアム・シェイクスピア 撮影:ジョン・キャンベル、エリック・アラン・エドワーズ 美術:デイヴィット・ブリスピン 編集:カーティス・クレイトン 音楽:ビル・スタッフォード 
出演:リヴァー・フェニックス、キアヌ・リーヴス、ジェームズ・ルッソ、ウィリアム・リチャート、ロドニー・ハーヴェイ 
配給:weber CINEMA CLUB ◎8月7日(金)よりシネマート新宿、シネスイッチ銀座ほか全国にて
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「ドラッグストア・カウボーイ デジタルリマスター版」
DRUGSTORE COWBOY
1989年・アメリカ・100分
監督・脚本:ガス・ヴァン・サント 脚本:ダン・ヨスト 原作:ジェームズ・フォーグル 撮影:ロバート・イオマン 編集:カーティス・クレイトン、メアリー・バウアー 美術:デイヴィット・ブリスピン 音楽:エリオット・ゴールデンサル 
出演:マット・ディロン、ケリー・リンチ、ジェームズ・リーマー、ジェームズ・ルグロ、ヘザー・グレアム 
配鈴正、weber CINEMA CLUB ◎9月18日(金)よりシネマート新宿、シネスイッチ銀座ほか全国にて
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