公開10周年──岩井俊二監督が語る「リップヴァンウィンクルの花嫁」が愛され続ける理由
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今年、公開10周年を迎えた岩井俊二監督、黒木華主演の「リップヴァンウィンクルの花嫁」。SNSで知り合った相手との結婚をきっかけに、裏切りや出会いを重ねながら人生を切り開いていく皆川七海の姿を描いた本作は、現代を生きる女性の魂のロードムービーとして今なお多くのファンに愛され続けている。
6月13日には公開10周年を記念したイベント『10th Anniversary Special Screening』が開催され、8月22日には日本映画専門チャンネルで〈4Kアップグレード版〉がテレビ初放送される。これを機に、岩井監督に作品への思いや制作秘話、10年を経て感じる作品の魅力を聞いた。
―ファンとともに育ってきた、幸せな作品
まず、作品が10周年を迎えたことへの思いを語ってもらった。
岩井:これまで、黒木さん演じる皆川七海の誕生祭を毎年、日本映画専門チャンネルさんと開催してきた経緯があるんです。劇中に出てくるSNSのサイトを当時実際に作ったのですが、そこにファンの方たちが参加できるようになっていて、小さなファンコミュニティが生まれたんです。少し前にそのサービスは終了したのですが、それまでずっとファンの方が映画に寄り添って、感想や意見を言ってくださいました。そういったことを経て迎えた10周年ですから、非常に幸せな作品だと思います
―黒木華ありきで始まった映画づくり
「リップヴァンウィンクルの花嫁」は元々、岩井監督が企画・構成・出演を担当した、日本映画専門チャンネルのトークバラエティ番組『マイリトル映画祭』に、黒木華がアシスタントとして起用されたことから企画が立ち上がった。
岩井:アシスタントのオーディションがあったのですが、その数カ月前に黒木さんが出演した舞台『あゝ、荒野』(2011年)を観ていて、印象に残っていました。それでオーディションで黒木さんともうひと方をアシスタントに選びましたが、『マイリトル映画祭』をやっていくうちに、「この番組発の映画があってもいいよね」という話が出て、黒木さん主演の作品を作る企画が実現していったんです
―何もできない主人公だからこそ、旅は面白くなる
そのため、最初から彼女に当て書きをして、物語を作っていった。
岩井:七海はかわいそうなくらい、何もできない子として設定しました。ファンの方も、「彼女を見ていて、いらいらする」という感想を送ってきたくらいで。僕は子どもの頃から、ロードムービー的なものに惹かれるところがありまして。主人公は最初に、家族や周りの人と相性が悪くて、孤立して旅に出る。七海の場合は、それに加えて何もできない子なんですけれど、そのようなヒロインが旅するうちに新しい人たちと出会って、絆を深めていくという展開が描きやすいんです。後から思いましたが、ここでの黒木さんは先生役で、僕はアニメの「花とアリス殺人事件」(2015年)でも、「キリエのうた」(2023年)でも、彼女に先生の役を演じてもらっている。偶然ですが、次は先生ではない役で出演してもらいたいですね
七海の人生を変える、ある時は彼女を騙し、ある時には彼女を救う、綾野剛演じる何でも屋・安室のキャラクターがユニークだ。
岩井:七海は主に安室に騙されていて、彼も彼女を騙しているという意識の中でやっているんです。でもカモにすればするほど、なぜか七海の笑顔が増えていくというコメディを作りたくて。安室というキャラクターは七海と組み合わせてみると、意外な面白さを発揮し、大いに活躍してくれました
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もう一人重要なキャラクターが、七海と豪邸で一緒にメイドのバイトをする真白。それを演じたCoccoもそうだが、岩井監督はこれまで、Charaやアイナ・ジ・エンドなど、女性ミュージシャンを重要な役に起用してきた。
岩井:この人ならきっとここまで演じきってくださるだろうなと読みながら、ミュージシャンの人はキャスティングしていますし、またその人のしぐさや声色、その方が持っている情報にある程度合わせて、脚本を作っています。あとはこんなことも出来るんだとプラスアルファで、どんどん出てくるものを、現場でもらえたらと考えています。Coccoさんの場合も、本業は役者ではありませんが、実際に演じてもらうと素晴らしいです。他のミュージシャンの場合も、余人をもって代えがたいという状況になっていくので、そこが面白いです
―10年前に描いたSNS社会は、いま現実になった
作品には、レンタルファミリーやリモート学習による家庭教師など、当時まだ珍しかったSNSを介したさまざまなサービスが登場する。今では一般化したそれらのサービスを、10年前に取り上げているのが面白い。
岩井:今まで見たことがないサービスを登場させて、作品を展開させようと考えました。当時は、そういうものが急激に我々の生活を変えつつあるという思いがあったんです。すべてをスマホで片づけてしまう世の中になってきて、映像を作る側の人間からすると、なかなか厄介な話でもありましたが、そことしっかり向き合ったものを作りたいと思っていました
時代の気分を先取りしている感じもあって、映画は10年経っても全く古びていない。
岩井:ウェディングドレスやメイド服など、映像的な楽しさを生み出す要素を随所にうまく織り込めた作品になっていると思います。企画から完成まで、1つの作品とは長ければ3年ほど付き合うことになりますので、自分が飽きないものにしていかないといけません。すると、自分が3年飽きなかったのだから、観る人は3時間くらいであれば飽きずに観てもらえるのではないかと思えるんです。この作品の場合は僕の3年をはるかに超えて、10年間ずっと好きでいてくれる人たちがいる。そういう意味では本当に幸せな作品になったと思います

6月13日に開催された『「リップヴァンウィンクルの花嫁」 10th Anniversary Special Screening』では、本編上映後に岩井監督が登壇。出演者をはじめ、作品のファンを公言する著名人から寄せられた10の質問に答え、作品への思いや制作秘話を語った。
その模様を収録した特別番組も、〈4Kアップグレード版〉の放送とあわせてオンエア。「リップヴァンウィンクルの花嫁」の世界をより深く味わえる、ファン必見の特集となっている。
取材・文=金澤誠 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)
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「リップヴァンウィンクルの花嫁」<4Kアップグレード版>
※8月22日(土)よる9時30分ほか TV初放送
■原作・脚本・監督:岩井俊二
■出演:黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、和田聰宏、毬谷友子、佐生有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ
■あらすじ: 舞台は東京。派遣教員の皆川七海(黒木)はSNSで知り合った鉄也と結婚するが、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室(綾野)に依頼する。新婚早々、鉄也の浮気が発覚すると、義母・カヤ子から逆に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出される。苦境に立たされた七海に安室は奇妙なバイトを次々斡旋する。最初はあの代理出席のバイト。次は月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。破天荒で自由なメイド仲間の里中真白(Cocco)に七海は好感を持つ。真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えない。ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。

特別番組『「リップヴァンウィンクルの花嫁」10th Anniversary』
※8月22日(土)深夜12時40分ほか放送
公開10周年を記念して6月13日に開催した劇場イベント【『リップヴァンウィンクルの花嫁』10th Anniversary Special Screening】舞台挨拶の模様を収録した特別番組。
出演:岩井俊二
ⒸRVWフィルムパートナーズ
