青春は、まだ観客の予想を裏切れる——映画「万事快調〈オール・グリーンズ〉」

映画には、ときどき観客の予想を軽やかに裏切る瞬間がある。「万事快調〈オール・グリーンズ〉」も、そんな一本だ。第28回松本清張賞を受賞した波木銅のデビュー小説を、児山隆監督が映画化。危うい計画に手を染める高校生たちを描きながら、既成概念をこともなげに飛び越える青春映画に仕上げた。
8月26日にDVDと同時発売される豪華版Blu-rayには、本編に加え、映像特典として『BEHIND THE SCENE』をはじめ、完成披露上映会、公開記念舞台挨拶の模様も収録されている。映画の舞台裏に触れることで、本作がなぜこれほど鮮烈なエネルギーを宿した作品になったのか——その理由が見えてくる。
「第二部」が始まる瞬間に刮目させられる

なんといっても本作の鮮やかさは、「きっと、こうなるだろう」という観客の予想を、エンドロールまでことごとく裏切り続けるところにある。
学校にも家にも居場所を見いだせない朴秀美(南沙良)と、スクールカースト上位にいながら、家庭に問題を抱える矢口美流紅(出口夏希)。本作は、そんな対照的な二人を軸に、未来を見通せない若者たちが<一攫千金>という危うい賭けに乗り出す、不適切な青春映画だ。朴秀美が偶然手に入れた“あるもの”をきっかけに、漫画家志望の岩隈真子(吉田美月喜)らも加わり、「オール・グリーンズ」は学校の屋上で禁断の栽培計画をスタートさせる。交わるはずのなかった彼女たちが、一つの“計画”を共有することで少しずつ距離を縮めていく姿が、本作ならではの青春像を形づくっていく。
その転換点となるのが、劇中で矢口美流紅が発する「これは私たちにとっての第二部なんだよ」という一言だ。ここで初めてオープニングタイトルが現れる。真俯瞰から捉えた交差点を三人が駆け抜ける映像は、物語が新たな局面へ踏み出す合図でもある。
タイトルを冒頭ではなく、まさに「ここしかない」という瞬間に置く。その大胆な構成だけでも、本作が型にはまらない映画であることを雄弁に物語っている。
こうした映画づくりの姿勢は、撮影現場にも貫かれていた。児山監督は「観た人がワクワクするような疾走感や爽快感のある映画にしたかった」と語り、三人のシーンではアドリブも積極的に取り入れたという。出口夏希も「やりたいようにやっていいよ」と監督から背中を押され、「普段の自分に近かった」と役を振り返っている。
南沙良もまた、劇中でラップを披露する。もともとヒップホップに親しんでいたという本人の素地が、役に自然な説得力を与えているのだ。意外性のある配役でありながら、実は俳優自身の魅力がそのまま役へとつながる。その伸びやかな空気こそが、作品全体に躍動感をもたらしている。
『BEHIND THE SCENE』が教えてくれる映画の魔法

本作の魅力を語るうえで、編集の力は見逃せない。そして、その魅力をあらためて実感させてくれるのが、豪華版Blu-rayに収録された約16分の『BEHIND THE SCENE』だ。
とりわけ印象深いのは、屋上でホースを手に水を掛け合うシーン。本編ではスローモーションと荘子itによる音楽が重なり、青春のきらめきだけが切り取られている。しかしメイキングを見ると、撮影は10月。肌寒さを感じさせる環境で積み重ねられた時間が、スクリーンでは何事もなかったかのように、幸福な一瞬へと姿を変えている。
クライマックスの炎上シーンも忘れ難い。燃え上がるビニールハウスを前にした緊張感は想像以上で、それでも南沙良は最後まで役に向き合い続ける。映画とは現実をそのまま記録するものではなく、そこに新たな熱量を与える表現なのだと、この映像は教えてくれる。
イベント映像もまた、本作を見つめ直すきっかけを与えてくれる。完成披露上映会では、吉田美月喜が「あのオープニングタイトルにはスタッフの愛が詰まっている」と語り、吉田演じる岩隈を慕う藤木役の羽村仁成は、東京国際映画祭で本作を一般客に交じって二度鑑賞したことを明かす。出演者でありながら、一人の映画ファンとして作品を見届けたというエピソードからは、この映画への純粋な愛情が伝わってくる。
一本の映画が、観客へ届くまで

公開記念舞台挨拶では、児山監督がキャストへ宛てた手紙も披露された。コロナ禍を経験し、「作品は届いてこそ意味がある」と考えるようになった監督の率直な思いは、この映画がスクリーンの中だけで完結するものではないことを伝えている。そして南沙良が「今回の現場で、お芝居をすること、物を作ることはこんなに楽しいんだと改めて感じた」と語った言葉もまた、この作品がキャストにとって特別な一本になったことを感じさせる。
オープニングタイトルからエンドロールまで、「万事快調〈オール・グリーンズ〉」は、一瞬たりとも立ち止まらない。荘子itの音楽と児山監督の編集が噛み合った瞬間、この映画は一気にギアを上げる。俳優たちのエネルギーもそこへ重なり、物語は誰にも着地点を読ませないまま駆け抜けていく。
豪華版Blu-rayを見終えたあと、もう一度確かめたくなるのは、あの大胆不敵でクールなオープニングタイトルだ。本編と特典映像、その両方を味わうことで、一つの映画が完成していく時間そのものが、キャストやスタッフにとってかけがえのない青春だったことに気づかされる。
文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)

「万事快調〈オール・グリーンズ〉」
●8月26日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
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●豪華版Blu-ray 価格:6,050円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編119分+特典映像52分
★映像特典★
・BEHIND THE SCENE
・舞台挨拶映像(完成披露上映会/公開記念舞台挨拶)
・予告編集
★封入特典★
・ブックレット(16P)
●通常版DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編
★特典映像★
・予告編集
●2026年/日本/本編119分
●監督・脚本・編集:児山隆
●原作:波木銅 『万事快調〈オール・グリーンズ〉』(文春文庫)
●音楽:荘子it (Dos Monos)
●主題歌:NIKO NIKO TAN TAN『Stranger』(ビクターエンタテインメント/Getting Better)
●出演:南沙良、出口夏希、吉田美月喜、羽村仁成、金子大地、黒崎煌代 ほか
●発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
●販売元:TCエンタテインメント
©2026「万事快調」製作委員会
