久しくお目にかかれなかった“問題作”──「あなたの息子ひき出します!」〈あなたに観てほしい、日本映画がある 第12回〉
キネマ旬報YouTubeチャンネルにて配信している〈あなたに観てほしい、日本映画がある〉。現在公開中の日本映画の中から、特にオススメしたい作品を厳選し、その魅力を紐解いていくレビュー動画の第12回。今回取り上げる作品は、深川栄洋監督が企画・脚本も手掛けた「あなたの息子ひき出します!」。

都会から離れた田舎街で、幼い息子・颯太と暮らす小林典子(宮澤美保)。彼女は、社会から孤立したひきこもりの人々を支援する活動をしている。さまざまな事情を抱え、行き場を失った人たちと向き合い続ける典子のもとに、ある日、20年以上ひきこもっている三浦雅彦(大森南朋)の支援依頼が舞い込む。当初は一切の関わりを拒んでいた雅彦だったが、典子の地道な働きかけによって、少しずつ周囲と言葉を交わすようになる。しかし、彼には決して“ひき出して”はならない過去があった――。
「神様のカルテ」「法廷遊戯」などで知られる深川栄洋が、着想から10年をかけ、自ら企画・脚本・監督を務めて完成させた本作。主人公の典子を演じるのは、深川監督の妻であり、映画制作のパートナーでもある宮澤美保。ほか、平野ノラ、のせりん、小野光南翔をはじめ、吉行和子、生瀬勝久、かとうかず子、江口のりこ、柄本明、天海祐希、大森南朋らが顔を揃える。

本作をレビューする元にっかつプロデューサー、脚本家の山田耕大氏は、冒頭からこう切り出す。
「考えさせられる映画、というものに久々に出会った」
山田氏は、これまでの深川作品から「常に日向を歩いてきたように見えた」という監督が、本作のような題材を胸の内に秘めていたことに驚きを示す。
典子を演じる宮澤美保は、中原俊監督の「櫻の園」でデビューし、「苺の破片」で主演。深川監督作品にも出演してきた。山田氏が注目するのは、典子を取り巻く俳優たちの顔ぶれでもある。
かつて典子を手配していたスナックのママにかとうかず子。典子の活動を手伝うことになる由梨に平野ノラ。奇しくも本作が遺作となった吉行和子。さらに江口のりこ、白川和子、綾田俊樹、天海祐希、柄本明、そして三浦雅彦役の大森南朋――。

「こんな小さな映画なのに、脇で出演している俳優の顔ぶれがとにかく凄い」
なかでも山田氏が意外性を含めて「芝居も達者である」と評価するのが、由梨を演じた平野ノラだ。
映画は、ひきこもりという重いテーマを扱いながら、決して深刻さ一辺倒ではない。典子と由梨がさまざまな人々のもとを訪ねるエピソードなどに触れ、ユーモアも忘れないと言う。
山田氏は、「お兄ちゃんのハナビ」「世界は今日から君のもの」「百円の恋」、配信ドラマ『0.5の男』、NHK土曜ドラマ『ひきこもり先生』など、これまでひきこもりを題材にしてきた映画やドラマを挙げたうえで、こう評する。
「いろんなひきこもりものがあるが、『あなたの息子ひき出します!』はひと味違うと思った」
その“違い”が鮮明になるのが、物語が性加害という問題へ踏み込んでからだろう。

典子は、社会から孤立した人だけではなく、過去に罪を犯し、社会から拒まれた人間にも手を差し伸べる。人を救うとはどういうことなのか。被害者と加害者が存在する問題において、加害者に寄り添うことは許されるのか。そして、支援する側はどこまで他者の人生を引き受けることができるのか。
山田氏はそこで、2026年2月に66歳で亡くなった、ストーカー問題に取り組んできたNPO法人「ヒューマニティ」元理事長・小早川明子氏を思い起こす。
小早川氏はストーカー被害者の支援に取り組む一方、「被害者を救うには加害者を変えるしかない」という信念のもと、加害者へのカウンセリングにも力を注いできた人物であり、山田氏は小早川氏の姿と、映画の中の典子を重ね合わせる。
「典子もまた性加害者の修吾たちに徹底的に寄り添うのだ。が、そのせいで社会通念という“モンスター”に追い詰められていく」
善意だけでは解決できない現実。それでも、目の前にいる人間を見捨てずにいようとする典子。その行動は正しいのか、間違っているのか――映画は簡単な答えを示そうとはしない。だからこそ、山田氏は本作を「久しくお目にかかれなかった“問題作”と評する。

ひきこもり、孤立、家族、性加害などを通じて本作が投げかける問いについて、山田耕大氏が語るレビューと共にぜひ見届けていただきたい。
※本番組は東芝の「音声合成技術 ToSpeak™」により生成された音声で読み上げられ、視聴の幅を広げて音声コンテンツとしても楽しむことができる構成となっている。
「あなたの息子ひき出します!」
監督・脚本:深川栄洋
プロデューサー:不二正人
出演:宮澤美保、平野ノラ、のせりん、小野光南翔、吉行和子、生瀬勝久、かとうかず子、石崎ひゅーい、江口のりこ、白川和子、米本学仁、大後寿々花、柄本明、西岡德馬、天海祐希、大森南朋
主題歌:石崎ひゅーい「手品」(作詞・作曲:石崎ひゅーい)
企画・製作・配給:スタンダードフィルム合同会社
©2026 スタンダードフィルム合同会社
10月2日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
