激動の時代を描きながら、根底に流れる澄み切った静けさ──「わたしの知らない子どもたち」〈あなたに観てほしい、日本映画がある 第13回〉
キネマ旬報YouTubeチャンネルにて配信している〈あなたに観てほしい、日本映画がある〉。現在公開中の日本映画の中から、特にオススメしたい作品を厳選し、その魅力を紐解いていくレビュー動画の第13回が10月23日より配信開始された。今回取り上げる作品は、西川美和監督が戦後の混乱期を舞台に、過酷な時代を生き抜く戦災孤児たちの姿を描いた「わたしの知らない子どもたち」。

終戦直後の日本。戦争によって家も家族も失った12歳の少女・琴子は、焼け野原となった街をさまよい、生き延びるために髪を切り、少年として暮らし始める。同じ境遇の子どもたちと出会い、靴磨きや荷運びなどをしながら路上で生活する琴子だったが、やがて仲間たちとともに警察に捕まり、孤島の施設へ送られてしまう。一方、戦時中に琴子の教師だった曽根文美子もまた、敗戦によって人生を大きく変えられていた。占領軍向けの慰安施設で働きながら、かつて見捨てた教え子の琴子を探し続ける文美子。戦争によってそれまでの価値観も居場所も奪われた二人は、それぞれに生き直す道を模索していく――。

「蛇イチゴ」で監督デビューを果たして以来、「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」「永い言い訳」「すばらしき世界」など、作品ごとに異なる題材に挑んできた西川美和。本作では戦災孤児という題材に向き合い、戦後の日本社会で生き抜こうとする人々の姿を描き出す。
本作をレビューする元にっかつプロデューサー、脚本家の山田耕大氏は、まず小津安二郎と西川美和が語った脚本と映画の関係について触れる。脚本に描かれた世界は、俳優たちによって映像化される過程で、もはや脚本とは別のものになるという考え方だ。
「映画は脚本から生まれて、映画として生まれ変わり、生き直すのだ。小津はそれを悲しみ、西川は希望を見出している」
山田氏は、脚本家であり監督でもある西川の創作姿勢に注目する。小説家としても「ゆれる」「きのうの神さま」「永い言い訳」が文学賞の候補となるなど高い評価を得てきた西川だが、山田氏が映画監督としての彼女に感じる魅力は、作品ごとに異なるモチーフに挑み、決して同じことを繰り返さない点にある。
「一作ごとに違うモチーフに挑み、違うテーマを追求しているのだ」
そんな西川が戦争をモチーフにした映画を撮るとは思っていなかったという山田氏は、本作への興味をかき立てられたと語る。西川監督は、2020年のコロナ禍から企画を始めた当初、戦争がこれほど身近な時代になるとは予想していなかったという。
山田氏が戦災孤児を描いた本作から思い起こすのは、小津安二郎監督の「長屋紳士録」だ。戦後の東京を舞台に、孤児の少年・幸平と、彼を預かることになった女性・おたねの心の交流を描いた作品である。しかし、山田氏は本作の琴子について「同じ孤児でも幸平のように恵まれてはいない」と指摘する。
家族も住む場所も失い、しかも少女であることを隠して生きる琴子。仲間たちと路上生活を送りながら、やがて孤島の施設へ送られた彼女は、そこで初潮を迎える。しかし、女であることが知られれば仲間たちと一緒にいられなくなると考え、あくまでも少年として生きようとする。

一方、かつて軍国教育に加担していた文美子は、敗戦後の社会に翻弄されながらも琴子を探し続ける。戦時中は愛国少女だった琴子も、教師だった文美子も、敗戦によってそれまで信じていたものを失ってしまった。
山田氏は、塚本晋也監督の「野火」「ほかげ」、さらにベトナム戦争を扱った「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」にも言及し、戦争が再び身近なものとなりつつある現代と、本作が描く時代を重ね合わせる。
そして、山田氏が西川監督の演出に見いだしたのは、戦争の悲惨さや戦後の混乱を描きながらも、映画全体を貫く独特の静けさだった。
「映画のタッチは激動の時代を映しながら、根底に澄み切った静けさがある。それは西川美和の理智ではないかと思われる」

戦争によってすべてを失い、それまでの自分を捨てて生き直さなければならなかった人々。その姿を通して西川美和監督が描こうとしたものは何なのか。小津安二郎との比較から西川作品の魅力、そして現代の戦争への思いまで、山田耕大氏が独自の視点で語るレビューを、ぜひ動画でお楽しみいただきたい。
※本番組は東芝の「音声合成技術 ToSpeak™」により生成された音声で読み上げられ、視聴の幅を広げて音声コンテンツとしても楽しむことができる構成となっている。
「わたしの知らない子どもたち」
原案・脚本・監督:西川美和
音楽:原摩利彦
出演:小八重葵美、二階堂ふみ、坂東龍汰、櫻井海音、花瀬琴音、北村有起哉、吉田羊、竹野内豊、岡田准一、田中裕子、役所広司
製作・配給:K2 Pictures
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