『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』発売記念 特別連載  驚きの「スター・ウォーズ」伝説こぼれ話

1979年3月5日にクランクインした世紀の傑作「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」。その壮絶な製作の裏側に迫る仏版コミック『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』が5月4日に発売決定!世界中の「スター・ウォーズ」ファンに衝撃と感動を与え、ジョージ・ルーカス自身も絶賛した『ルーカス・ウォーズ』続編発売を記念し、「スター・ウォーズ」ファンならぜひ知っておきたい驚愕の裏話こぼれ話を『スター・ウォーズ論』 (NHK出版新書)などの著者、河原一久さんに連載いただく。誰かに話したくなるトリビア情報が満載!

第1回:なぜ「スター・ウォーズ」はアップデートが続いたのか?

~コミック『ルーカス・ウォーズ』が可視化した監督の心情

2025年12月5日、ルーカスフィルムは「スター・ウォーズ」公開50周年を記念して、2027年2月17日から1977年に公開された当時のままのオリジナル版を期間限定で公開すると発表した。この知らせに世界中のファン、特に公開当時からの“古参ファン”は狂喜した。この劇場公開版をめぐっては、創造主ルーカスと熱心なファンたちとの確執とも呼べるヒストリーがあったからだ。

1997年当時、大ヒットした「特別篇」だったが…

シリーズの生みの親ジョージ・ルーカスは、1997年に公開20周年を記念した「スター・ウォーズ 特別篇」において、ジャバ・ザ・ハットとハン・ソロの対峙、ルークと親友ビッグスの再会といった大きな場面の追加に加え、数多くのCGによって出来の悪かったVFX場面の修正や差し替えを行った。この大幅アップデートは当時、熱狂的な興奮とともに受け入れられ、特別篇はリバイバル映画としては異例なほど大ヒットした。公開前の劇場では特別篇の予告編だけを見て帰ってしまうというファンまでいたくらいだった。

ところがその後、特別篇がビデオ化される頃になると、ファンたちは少しずつ不満の声を上げはじめた。特に「ハンがグリードに先に撃たれてから撃ち返す」といった修正や「ジャバの出来の悪いCG」などがやり玉にあがり、やがて「特別篇よりも劇場公開版の方がいい」という声も出てきた。この頃には「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望 特別篇」と呼ばれていたが、2000年末のVHSビデオリリースからは「特別篇」の表記が外され、これによって「最新版だけが正式なスター・ウォーズである」ということに定義されてしまった。

これにファンたちは猛反発した。「もう劇場公開版を見ることはできないのか?」「あの頃のバージョンが自分にとってはスター・ウォーズの原体験なんだから、それを見られなくなるのは困る」といった声が噴出した。

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「スター・ウォーズ 特別篇」公開にあたり、『キネマ旬報』1997年5月下旬号でも巻頭から大特集を組んだ

ヒートアップしたファンの反発で大炎上

そして2004年に初めてエピソード4~6の「オリジナル3部作」が初めてDVD化されるとファンの反発はさらにエスカレートした。DVD版では特別篇での変更に加え、「帝国の逆襲」に登場する皇帝がイアン・マクダーミド演じるバージョンに差し替えられ、「ジェダイの帰還」ではラストシーンでセバスチャン・ショウが演じていた「老いたアナキン」が、ヘイデン・クリステンセン演じる「若きアナキン」に変更されていたのだ。もちろん、これらの変更にはルーカスとしての意図があってのことだったのだが、その意図を理解しようとするファンはほぼ皆無で、とにかく大炎上となった。

そして2006年、ルーカスフィルムはついに「劇場公開版」のDVDをリリースした。しかし「リミテッド・エディション」と題されたそれは、特典映像として収録された、低画質なものでしかなかった上、「今後は劇場公開版が公開されることはない」と正式にアナウンスされてしまったため、ファンたちの怒りは頂点に達した。これが今から20年前のことだ。

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「帝都の逆襲 特別篇」の広告が掲載された『キネマ旬報』1997年7月上旬号

蓄積していったファンの負の感情“ルーカスへの恨み”

以来、一部のファンの間では、劇場公開版を封印してしまったルーカスに対して憎悪に近い感情が募っていったのだが、これもひとえに「自由に見ることができない」という状況によるものだ。ファンとしてはやり場のない怒りとして負の感情が蓄積していくことになった。興味深いのは「エピソード1/ファントム・メナス」でもポッドレースの場面が追加されたり、「エピソード2/クローンの攻撃」でもラストシーンでデジタル上映版では、機械の腕となったアナキンがパドメの手を取るのだが、通常のフィルム上映では「手を取らない」といった違いがあり、以降はデジタル版だけしか観られないのだが、これに文句を言うファンはいない。

結局、オリジナル三部作のリアタイ世代のこだわり、ということになる。しかし、一番のポイントは「なぜルーカスは作品を改良し続けたのか」であって、少なくともこの点は理解しておかないと、これらのファンの主張も「過去の思い出に囚われすぎた怨念」にしかならないと思う。

そこで『ルーカス・ウォーズ』だ。

『ルーカス・ウォーズ』で描かれたルーカスの苦悩

ルーカスの生い立ちから「スター・ウォーズ」の第1作完成までを描いたバンド・デシネの傑作『ルーカス・ウォーズ』は、いまや伝説となったシリーズ誕生の苦悩と苦労の連続だった逸話がエキサイティングに綴られていた。アラン・ラッド・ジュニア以外のフォックス重役たちの無理解、砂嵐など大混乱のロケ現場、動かないロボットたち、イギリスの撮影所システムの違いや撮影監督ギルバート・テイラーや編集者ジョン・ジンプソンとの衝突、そして遊んでばかりでろくに仕事をしていなかったILMのスタッフたち。

こうしたトラブルによってルーカスは脚本から見せ場をカットしたり修正したり、あるいは中途半端な出来栄えのカットに妥協したりの連続だった。ルーカスの頭の中には明確に繰り広げられていたビジョンがあったのに、それをフィルムに焼き付けるという作業がとんでもなく困難で心身が疲弊していき、しまいには胸部の痛みによって倒れるに至ってしまう。救いだったのはジョン・ウィリアムスによる壮大な音楽くらいで、ルーカスとしては1977年に劇場公開した「スター・ウォーズ」とは、「妥協に妥協を重ねた未完成品」でしかない作品だった。

『ルーカス・ウォーズ』によってコミックとして可視化されたこの苦難の道のりは、まさに血と汗と涙が結晶となった「ひとりのクリエーターの旅路」となり、読者はそれを追体験することによって、最終的に作品が完成されたことに大きな、そして新たなカタルシスを得ることになった。それと同時に、長年くすぶっていた、「なぜルーカスは自作を改訂し続けるのか」という疑問に、明快な答えが劇的な形で提示されたことになったのだ。

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前作『ルーカス・ウォーズ』で描かれた「スター・ウォーズ」第1作の撮影トラブル風景シーン

オリジナル版公開で気づかされた“リアル”

去年6月、英国映画協会は1977年に公開された「スター・ウォーズ」第1作を公開当時のオリジナルの状態のプリントで記念上映を行ったが、現代の価値観で改めて鑑賞されたオリジナル版は「ひどい出来栄え」(テレグラフ紙)だったという。

「まるで全く違う映画を見ているようだった」と言う記者のコメントが特別だったわけではない。この上映会に参加した長年のファンのひとり、ジョージ・アルドリッジ氏は、「上映は信じられないほど特別だった」と語ったが、「スター・ウォーズ作品には素晴らしい変化が数多くあり、私たちが気に入らない点が常にそれらを覆い隠してきた」ことにも気づかされたとも語っている。

なぜルーカスは自作を改訂し続けたのか

「ルーカスは最初から、これらの映画に変化を加えてきた。単純に大きなシーンが変わるだけではなく、今になって初めて気づくほどの細かいニュアンス、音響効果、ごく小さなディテールまで変化を加えてきた」と語る。

実際、ルーカスは映画史上に残る大ヒットという状況になった当時でさえ、繰り返し作品の出来に「失望している」と語り、「完成はしたがそれだけ。ただ観客は受け入れてくれた」と語っている。それゆえに、資金と状況的にその「失望」を「満足」に変えることは、フィルムメイカーとしては当たり前のことであり、逆に言うならば、世界中の観客たちは単に「未完成品に熱狂していただけ」なのだ。結局のところ、「劇場公開時のバージョン」への郷愁は、観客一人ひとりの個人的な「思い出」にすぎない。しかし作家ジョージ・ルーカスのビジョンよりも優先されるものでは当然ない。

古いファンの長年の悲願であった劇場公開版の公開によって、ルーカスによる長年のアップデートが再評価されてきていることはある種皮肉的だが、人によっては受け入れがたいこの事実も、『ルーカス・ウォーズ』による体験が、素直に受け入れられるようになる「良薬」になることは間違いないだろう。

そして、今年刊行されるその続編は、さらなる苦難が語られることになるが、それが「スター・ウォーズをめぐる世界」に対する理解の解像度を引き上げてくれるだろうこともまた、今から約束できる事実なのである。

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完成版を見た途端、修正を決断するルーカス!(『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』より)

執筆者プロフィール
河原一久(かわはら・かずひさ) 映像ディレクター・映画評論家。1965年生まれ、神奈川県出身。1991年より、テレビの情報番組でさまざまな話題を取材し続ける。日本における「スター・ウォーズ」研究の第一人者として、「スター・ウォーズエピソード1~6」の字幕監修を手がける。『ルーカス・ウォーズ』の監修を担当。

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『ルーカス・ウォーズ エピソードⅡ』
5月4日発売(キネマ旬報社刊)
4200円+税

■ご購入はキネマ旬報オンラインショップから⇒https://www.kinejunshop.com/items/141239991

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