音楽と政治が共鳴した“もう一つの冷戦史”「叛逆のサウンドトラック」
音楽と政治が共鳴した冷戦期のうねりを描き、2025年アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた「叛逆のサウンドトラック」が、8月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国で順次公開される。メインビジュアルが到着した。

1961年2月のある朝、歌手のアビー・リンカーンとドラマーのマックス・ローチは、新たに独立を果たしたコンゴの首相パトリス・ルムンバの殺害に抗議するため、国連安全保障理事会に突入する。約60人の抗議者が、不意を突かれた警備員たちに襲いかかり、ショックを受けた外交官たちは見守るだけだった。この瞬間、世界は“脱植民地化”という名の地殻変動に呑まれていく。希望と混乱が入り混じる、新時代の幕開けだった。
その6ヵ月前、16の新興独立アフリカ諸国が国連に加盟したことで、投票の多数派は旧宗主国から新興国へ移り、国際政治の重心が揺れ動いた。冷戦の緊張が最高潮に達する中、ソ連のニキータ・フルシチョフは国連総会で、コンゴで進行していた新たな植民地主義的な権力奪取を激しく非難。さらにアメリカの人種差別、国連によるルムンバ転覆への関与を糾弾し、世界的な脱植民地化を即時に実現すべきだと訴えた。その裏でベルギー国王ボードゥアンは、かつての植民地コンゴの豊富な資源を失うことを恐れ、アイゼンハワー政権と手を組む。特に原子爆弾製造に不可欠な高純度ウランの供給源として、コンゴを手放すことはできなかった。こうしてコンゴは、冷戦下での政治的駆け引きの中心舞台となった。
アメリカ国務省は“ジャズ外交”を開始し、ルイ・アームストロングを“アフリカ親善大使”として派遣する。だがその裏では、CIAが支援するアフリカ初のポスト植民地型クーデターが進行し、結果としてコンゴ初の民主的指導者ルムンバが暗殺されることに。するとマルコムXはルムンバ支持を公言し、アフリカの統一とアフリカ系アメリカ人の人権闘争を結びつけようとした。彼にとっての闘いは「公民権」ではなく「人権」の問題であり、国連で訴えるべきものだった。
一方その頃、アフリカ各地で活動していたブラック・ジャズ・アンバサダーたち──アームストロング、ニーナ・シモン、デューク・エリントン、ディジー・ガレスピー、メルバ・リストンなど──は、祖国アメリカで依然として差別が合法である現実に直面しながら、“誰のために演奏するのか”というジレンマを抱えていた──。
「叛逆のサウンドトラック」はそうした歴史の一幕を、音楽と政治が共鳴した「もう一つの冷戦史」として描出。女性解放運動の先駆者で政治家のアンドレ・ブルアン(中央アフリカ共和国)、国連平和維持活動を率いたアイルランドの外交官コナー・クルーズ・オブライエン、ベルギー=コンゴ出身の作家イン・コリ・ジャン・ボファン、ソ連の指導者ニキータ・フルシチョフという4人の視点から、アフリカの自決を破壊した“裏側”の物語が語られる。
プロデューサーはダーン・ミリウスならびに「私はあなたのニグロではない」(2016)のレミ・グレレティ。監督は「ダイアル ヒ・ス・ト・リー」(1997)や「シャドー・ディール 武器ビジネスの闇」(2016)のヨハン・グリモンプレ。壮大なドキュメンタリーに注目したい。
〈海外メディアのレビュー〉
『叛逆のサウンドトラック』のことが頭から離れない
──アリッサ・ウィルキンソン(ニューヨーク・タイムズ)
スリリングで刺激的なエッセイ映画… 綿密で情報に富み、研究熱心でありながら、エネルギーと大胆な形式に満ちている。政治の歴史がこれほど生き生きと躍動的に感じられたことはない。
──ウェンディ・アイド(スクリーン・インターナショナル)
驚くほど完成度の高い作品。重厚な歴史書のようでもあり、生き生きとしたジャズコンサートのようでもある。政治的なドキュメンタリーでありながら観客を引き込む映画体験だ。
──ムルタダ・エルファドル(ヴァラエティ)
まるでシンコペーションの効いたスリラーのような映画
──ロヴィア・ギャーケ(ハリウッド・リポーター)
ジャズと政治を融合させた鮮やかな映像エッセイ
──デヴィッド・オピー(インディワイヤー)
これは単にジャズを扱った映画ではなく、まさに“ジャズそのもの”だ。そして単なる政治映画ではなく、政治的行為そのものでもある。
──キース・ドリッセン(ビジネス・ドック・ヨーロッパ)

「叛逆のサウンドトラック」
登場人物:ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ニーナ・シモン、ミリアム・マケバ、ジョン・コルトレーン、デューク・エリントン、メルバ・リストン、エリック・ドルフィー、チャールズ・ミンガス、オーネット・コールマン、ル・グラン・カレ、ロック・ア・マンボ、ドクター・ニコ、マリー・ドールン“ザップ・ママ”、パトリス・ルムンバ、エディ・ウォーリー、ウィリス・コノーバー、ルネ・マグリット、アンドレ・ブルアン、ニキータ・フルシチョフ、イン・コリ・ジャン・ボファーネ、マルコムX、コナー・クルーズ・オブライエン、アレン・ダレス、ジョン・F・ダレス
監督・脚本:ヨハン・グリモンプレ
製作:ダーン・ミリウス、レミ・グレレティ
共同プロデューサー:カティヤ・ドライイエル、フランク・フーヴェ
編集:リック・シャウベット
サウンドデザイン:ランコ・パウコヴィッチ
音響監修・ミキシング:アレク・“ブニッチ”・グース
グラフィック&タイトルデザイン:ハンス・レッタニー
カラーデザイン:ブレーズ・ジャドゥール
アーカイブ資料リサーチ:ジュディ・アレイ、レモンド・パニス、ポリーヌ・ブルゴー、アレクサンダー・マルコフ
アーカイブ・プロデューサー:サラ・スクロズカ
2024年/ベルギー・フランス・オランダ/156分/16:9/5.1ch
原題:Soundtrack to a Coup d’Etat
日本語字幕:山口三平
配給:オンリー・ハーツ
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