「急に具合が悪くなる」ジャパンプレミア開催。ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代、濱口竜介監督が語る
第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、主演のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が最優秀女優賞に輝いた「急に具合が悪くなる」。5月27日(水)にTOHOシネマズ 日比谷でジャパンプレミアが行われ、登壇したヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代、濱口竜介監督が思いを語った。

ヴィルジニー・エフィラ(以下エフィラ) 日本にくることができてうれしいです。本当にこの映画作りを始めた時から大きな冒険のようで、最初から心から喜んでこのプロジェクトに参加しました。そしてこうして皆様の前で、(日本での)プレミア上映に立ち会うことができて、本当に夢が到達点に達したという感じがいたします。
岡本多緒(以下、岡本) 私たちが本当に思いを込めて撮影してきた作品を、こうして今日日本でプレミア上映できるということで、すごく嬉しいです。彼女も今回のためにフランスから来日してくださって。長塚さん、黒崎くんと、もちろん濱口監督とこうしてこの場に立っている今日が、なんかすごく感慨深いです。今日は楽しんでいってください。
長塚京三(以下、長塚) この素晴らしい作品に参加できた喜びを、今しみじみとかみしめているところです。今日はようこそご来場くださいました。僕もこのまま一緒に映画を見ていきたいんですけれども、ぜひ皆様、ごゆっくりと最後までお楽しみください。
黒崎煌代(以下、黒崎) 今日このメンバーで東京で皆さんにこうしてご挨拶ができるということを、本当にずっと待ちわびていました。すでに感動しています。
濱口竜介(以下、濱口) 本当にお越しいただきましてありがとうございます。自分にとっても本当に夢のような気持ちがしています。素晴らしい撮影、そして素晴らしい仕事が、日本、フランス、ベルギー、ドイツとの共同製作で完成しました。今日は楽しんでいってください。
──演技や撮影現場について
エフィラ (日本語での演技は)最初はもちろん戸惑いました。日本語は私にとって全く未知の言語でしたから。でも、濱口監督の特別なメソッドのおかげで、単なる言葉の暗記ではなく、身体の中に響く音として日本語を捉えることができました。本当に不思議な体験で、この美しい言語を通して新しい感情を表現できたことは、私の女優人生においても大きな財産になりました。
岡本 病と向き合うという重いテーマではありましたが、真理という女性の生命力や、演劇に対する情熱をどう表現するかに一番時間をかけました。フランス語に関しては、ヴィルジニーが本当に忍耐強く付き合ってくれて、彼女とのコミュニケーションの中で自然とフランス語が自分の言葉になっていく感覚がありました。現場は本当に温かく、皆に支えられて真理を生きることができたと思います。
長塚 (濱口組は)本当に独特でした。私たちはひたすら感情を込めずに台本を読むんです。最初は戸惑いましたが、いざカメラの前に立つと、自分でも驚くような感情が自然と溢れてくる。監督の緻密な計算と、現場の柔らかな空気が見事に調和した、本当に素晴らしい現場でした。
黒崎 本当に、長塚さんのお芝居を間近で見られるというだけで毎日が勉強でした。僕が演じた智樹は言葉が少ない役なので、現場では常に周りの空気や、長塚さん、ヴィルジニーさん、岡本さんの存在感を全身で感じることに集中していました。監督の演出も本当に丁寧で、僕自身、智樹という役と一緒に成長できたように感じています。
濱口 本当に、皆さんの献身的な努力のおかげです。言葉の壁は当然ありましたが、それを超える『何か』を共有できたという実感があります。それはお互いへのリスペクトであったり、この物語への深い理解であったり。僕自身は特別なことをしたというよりは、皆さんがそれぞれの役を生きるための環境を整えることに注力しました。皆さんが本当に素晴らしいお芝居をしてくださったので、僕はただカメラの前でそれが起こるのを見守っていたような感覚です。
──受賞について
エフィラ 受賞があるかもしれないと連絡を受けた時には、『映画が賞をもらえるんだ』と思うだけで凄く嬉しかったんです。たくさんの映画の中で、8つしか賞はないわけですから。しかし、女優賞だとは知らなくて非常にびっくりしました。映像をご覧になったかもしれませんが、2人ともびっくりしているのが分かると思います。2人で受賞できたので、すごく嬉しくて。この映画は見ていただいて分かるように、女優を中心に据えた映画でもありますので、この受賞も正解かなと思っています。
岡本 実感としては本当にまだまだ湧いておらず、ずっと湧かないままなんだろうなと。たくさんの祝辞をいただいて、皆さんが『元気をもらった』とか『嬉しい』って言ってくださることに感激しています。私が俳優としてこの賞をいただいたという感覚ではなくて、この2人のやり取りの中に生まれた何かを評価していただいたと思っています。なので、これはペアとして受賞できたことに意味があるし、それが審査員の方にも伝わったことがすごく嬉しいです。
ここで原作者の磯野真穂さんが登場。以下の手紙を贈った。
「竜介は私たちに冒険を経験させてくれた。でも、冒険という言葉は小さすぎる。それは永遠に刻まれる人生の経験だった。エフィラさんは受賞後、こんな美しい言葉を選んで語ってくださっています。岡本さんはエフィラさんとの間で、『原作の書簡で起こっていることと同じようなことが、私とエフィラさんの間に起こったように思う』ととても丁寧な手紙をくださいました。
ドイツの児童作家ミヒャエル・エンデが書いた童話『モモ』の中に登場する時間の森人マイスター・ホラは、『宇宙には全く1回きりでしか起こり得ないようなやり方で互いに働き合うような瞬間があり、それは星の時間と呼ばれるものなんだ』とモモに語ります。その瞬間は後にも先にも起こり得ないようなことが起こるけれど、大抵の人はそれに気づかず、星の時間はただ過ぎ去ってしまうのだと。
宮野さんと私の間に流れていたのは紛れもない星の時間でした。そして、その星の時間はエフィラさんと岡本さんの間にも流れていたのではないかと思うのです。では、その星の時間が可能になるのはどんな時なのでしょうか。私はカンヌでここにいらっしゃる皆さん、さらにはフランスの俳優の皆さんが口にしている言葉を聞き、その答えを得た気がしています。皆さん口々に、『濱口さんは敬意を持って自分たちに接してくれた。人間として扱ってくれた』そうおっしゃっていました。
この映画は技術だけで作られているわけではない。目の前にいるその人全体を大切にしよう。濱口さんのそのような真摯な姿勢が波紋のように俳優とスタッフの間に広がったからこそ、星の時間が生まれ得る天空が立ち上がり、星の時間が顔を出した。主演の2人はそれを掴み取って、その星の時間を生きたのではないかと思います。
とはいえ、人を大切にするとはとても根気のいる泥臭い作業です。実際濱口さんは5年という歳月をかけて私たちの書簡を大切にしようと音読までしながら何度も何度も向き合い、その底を流れる文字にはなっていない私たちの声を汲み上げようとしてくださいました。この映画には目の前の何かを大切にするという華々しさとは正反対の作業の裏側に心を砕いてくださった多くの方々がいます。
観客の皆さん、3時間を超える長い映画ですが、この作品は、このように作られているので、エンドロールまで楽しんでいただきたいと思うのです。この映画はそれだけの価値がある作品です」
エフィラ ありがとうございます。本当に嬉しい言葉をいただき、感謝しています。人生の中で、『ああ、本当に生きてることに意味があるんだ、私がやっている全てのことに意味があるんだ』と思う時ってなかなかないですけれども、磯野さんの言葉を聞いて、そう思いました。本当にありがとうございます。監督がよく『一緒に道を描いていこう、ラインを引いていこう』と言っておりまして、それは本の中にもあったと言ってらっしゃいました。こうして、あなたと一緒にこのラインを引いて道を開いていくことができて嬉しかったと思います。

──ヴィルジニーと多緒、互いの印象について
エフィラ ずっと一緒に撮影をしていて、とても幸せでした。出会った時に、この映画の中の2人が出会ったのと同じことが起きたと言えると思います。だから、撮影が終わって別れるのが辛かった。本当に仲良くなって、その仲の良さが映画にも表れていると思いますし、すごく有機的に、オーガニックに現れていると思います。
岡本 (演技をする上で)本当に自然に惹かれていくということが私の中で起こっていました。頑張って好きになろうみたいなことが一切必要なかったのは、彼女の持っている魅力に助けてもらえた部分だと思います。今、横で見ていても『美しいな』と思って見てるんですよ。シーンの中でもそういう気持ちになったことが多々あって、それも今懐かしいなと思い出しました。
──受賞の瞬間について(※長塚と黒崎は日本にいた)
長塚 僕はテレビのツーショットでヴィルジニーと多緒さんが出ているのを見ていて、突然多緒さんが泣き出したんで、僕も泣いてしまいました。本当におめでとうございます。Félicitations!(おめでとう)
黒崎 僕、寝てたんです(笑)。起きてスマホ見たら……! もう数年で一番目覚めが良かったです。おめでとう!
濱口 多緒さんもヴィルジニーさんも『え、どういうこと?』みたいな顔をしていて。『呼ばれましたよ』と声掛けして2人を立たせて。2人が壇上で、とてもエモーショナルなスピーチをしてくれていて、『素敵だな』と思いながら見ていました。本当に、あの2人が賞を受けたことは、この作品全体が評価されたと思っています。これからご覧いただくと分かりますが、この2人の演技が良くなければ決して成立しない映画であるし、そもそも始まりとして原作が2人の女性の魂の分け合いの話なので、それを2人が体現してくれた。宮野真生子さんと磯野真穂さんの魂を引き継ぐような形で見せてくださったことに、深く感謝をしております。
──観客へのメッセージ
エフィラ この映画への参加は、私に『映画を作るとはどういうことか』『人と深く向き合うとはどういうことか』を改めて教えてくれる、人生を変えるような旅でした。日本という素晴らしい国で、この素晴らしいチームと一緒に作れた作品を、今日皆さんと共有できることが私の最大の誇りです。どうぞ、私たちのこの旅を一緒に楽しんでください。
岡本 病や老い、そして死という少し重いテーマを扱ってはいますが、決して悲しいだけの物語ではありません。ヴィルジニーと一緒に生きた真理という女性の命の輝きや、人が誰かを想うことの美しさを感じていただけると思います。私たちの宝物のような作品になりました。ぜひ、エンドロールの最後まで楽しんでご覧ください。
長塚 この作品は、私にとってもこれだけ長く俳優をやらせていただいている中で、非常に特別で、ある種ショッキングと言えるほどの忘れがたい経験となりました。先ほどから話に出ている濱口監督の魔法のような現場の空気感、そして、ここにおられるお2人の女優の素晴らしい魂の交歓を、どうぞスクリーンでたっぷりと味わってください。本日は本当にありがとうございました。
黒崎 この映画は、僕が演じた智樹のように『言葉』を介さなくても、人と人が深く繋がれるんだという温かい瞬間がたくさん詰まっています。今日ここに来てくださった皆さんにも、スクリーンからその温かいエネルギーが伝われば嬉しいなと思います。楽しんでいってください!
濱口 磯野さんの言葉に本当に感動し、ここまで頑張ってきてよかったと心から思いました。ありがとうございます。本作は、ここにいらっしゃる俳優の皆様が原作者の想いという“ライン”を引き継ぎ、大切な仕事をしてくれたからこそ成り立った映画です。スタッフ・キャスト総出の力で完成した作品ですが、代表して皆様に御礼申し上げます。上映前に一つお伝えしたいのは、先ほどからお話ししている『ラインを引く』という言葉は、原作にも書かれている大切なテーマです。ご興味を持たれた方は、ぜひ原作も手に取っていただければ幸いです。その上で、この映画をご覧になった後、次にその『ライン』を描くのは、観客の皆様お一人お一人だということです。どうぞ最後までごゆっくり楽しんでいってください。
※映画は6月19日(金)より全国公開
Story
パリ郊外の介護施設〈⾃由の庭〉。施設長のマリー=ルー・フォンテーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)は⼊居者を⼈間らしくケアすることを理想としつつも、人手不足やスタッフの無理解に悩まされていた。そんな中、がんと闘う演出家の森崎真理(岡本多緒)と出会い、彼女の演劇から勇気を得る。そして名前の響きが同じ二人の交流が始まるが、あるとき真理は「急に具合が悪くなる」。真理の病が進むにつれ、両者の関係は劇的に深まっていく──。
「急に具合が悪くなる」
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
脚本:濱口竜介、ルディムナ玲亜
出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代
製作:Cinefrance Studios、オフィス・シロウズ、ビターズ・エンド、HeimatFilm、Tarantula
配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners
フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作/196分/カラー/1:1.5
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公式サイト:www.bitters.co.jp/soudain
