特別先行版「鬼平犯科帳 本所の銕/密告」でヒール役を熱演! 駒木根葵汰インタビュー
「誰にどう思われようと関係ない、と思っているので」
インタビューの場でそう言い切った駒木根葵汰は、少しも虚勢を張っているようには見えなかった。
松本幸四郎主演『鬼平犯科帳』シリーズ最新作が放送に先立ち二本あわせて劇場公開される特別先行版「鬼平犯科帳本所の銕/密告」に、ヒール役で出演。先日、公開に先駆けて開催された第2回『鬼平犯科帳祭』の舞台上で、共演者から口々に「凄まじいくらい、憎たらしかった」と絶賛されていた駒木根。その潔さの源にあるものは何か――。念願だった悪役への挑戦を経て、俳優としても人間としても新たなフェーズに入りつつある彼の、今に迫った。

染五郎の強い信念と、幸四郎の余裕からくるオーラ
「悪役を演じることで、特定の色が定着することへの恐れは……?」。そう問いかけると、「自分で心の底から『よくできたな』と思えれば、特に誰にどう思われてもいいのかなと。他人の目を気にして役を選ぶことは、きっと今後もしないと思います。自分がワクワクする役を進んでやっていきたいです」と、あっさり言ってのけた駒木根葵汰。その潔さは、彼がこの『鬼平犯科帳』を通じて深めてきたある確信にあった。
「薄ら笑いを浮かべながら話すような人間は、なんだかすごく余裕がありそうで、鼻につくじゃないですか。自分自身が必死に生きているからこその“妬み”もあって」
今回、駒木根が挑んだのは単なる悪役ではない。唯一の“一人二役”で、『本所の銕』では、御家人・小平次を、『密告』では、盗賊・伏屋の紋蔵を演じた。実は父と子、しかも年齢もさほど変わらない二役を同じ俳優が担うという、異例の設定である。
「正直、見た目は変えられないので。観た方がそれで父子なんだなとわかってもらえればいいかなという、ある種の“甘え”もありましたが(笑)。どちらの役も、何か一つでも間違えたら生死にかかわる世界を生きていた人間だと思ったので。何をするにも必死というか、『明日を確約するために今日を必死に生きる』感覚は常に持っていましたね。人を斬るときも、信念を持ち、自分の“意志”で斬るように心がけていました」
紋蔵については役を作る上での“材料”を台本から読み取るのが難しかったという。
「紋蔵の詳しい過去が、台本や映像にもう少し詳しく残っていたら、自分としても彼が盗賊になった理由がわかりやすかったんですけど、今回それがなかったので。紋蔵の生育過程について、監督といろいろ話し合いながら空白を埋めていきました」
監督との対話の末に辿り着いた、紋蔵という人間の輪郭。「これが別に正解というわけではないですが……」と前置きしながら、こう明かしてくれた。
「職人の後添えになった母親から、実はれっきとした武家の息子と聞かされていても決して裕福な暮らしではなく、満足に食べることすらできなかった。そんななか苦労している母親の姿を見て、彼は非行の道に走ったんだと思うんです。でも、一度悪事に手を染めてしまうと、なかなか後戻りはできない。最初は、生きるために仕方なくやっていたことが、いつしか自分のなかでの正義になり、もはや取り返しのつかないところまでいってしまった……。それを見かねた母親が最終的に“密告”を選択したのではないかと思うんです。彼が辿ったであろう人生について監督とそんなことを話しました」
ただ、役を演じる上では、そうした「救い」の感情はあえて排除したのだという。
「そこに『こうしないと生きられないんだ』みたいな弱さを持ち込んでしまうと、狂気や必死に生きている部分が濁ってしまう気がして。『これをしないといけないんだ』という使命感だけを、ずっと持っていましたね」

二作品で異なる座長と対峙したことも、大きな経験になった。『本所の銕』で、銕三郎こと、若き日の長谷川平蔵を演じた市川染五郎との現場は、「同世代が中心で、みんなで一緒に頑張ろうという和気あいあいとした雰囲気」だった一方、“鬼平”こと平蔵を演じる松本幸四郎が率いる『密告』の現場では「経験豊富な方たちばかりだったこともあって、どうやって食らいついていこうかと見上げるような感覚が強かったかもしれない」と振り返る。それぞれから感じた“圧”について尋ねると、駒木根は少し考えてからこう答えた。
「染五郎さんからは、すごく荒削りだけど、強い信念を感じました。『この人には生半可な言葉は通用しないだろう……』というような。殺陣の稽古でも、彼がまったく休憩せずに取り組んでいたので僕もなかなか休憩できなくて(笑)。幸四郎さんには、やはり余裕からくるオーラのようなものを感じました。染五郎さんの荒々しさがいい具合に削れて気品になっていく……と言いますか。それぞれに宿る炎が、染五郎さんは内側がぐつぐつと煮えたぎった赤だけど、表面的には黒みがかった赤で、幸四郎さんは、もっと透き通っているような感覚がありました。もちろんこれはあくまでも僕の感覚的なものでしかなくて、実際に目に見えるわけではないですけどね(笑)」
――インタビューの続きは『キネマ旬報NEXT Vol.71』(7月1日発売)にて。
取材・文=渡邊玲子 撮影=キムアルム
ヘアメイク=吉村健 スタイリング=矢島悠貴
駒木根葵汰
こまぎね・きいた/ 2000年生まれ、茨城県出身。2021年、スーパー戦隊シリーズ『機界戦隊ゼンカイジャー』で主演を務めて注目される。近年の主な出演作として、映画では「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」(23)、「劇場版 緊急取調室 THE FINEL」(25)など、ドラマでは『天狗の台所』シリーズ(23・24)、『25時、赤坂で』シリーズ(24・25)、『新・暴れん坊将軍』、『やぶさかではございません』(共に25)、『替え玉ブラヴォー!』(26)などがある。この秋には映画「ホーム スイート ホーム」の公開(9月4日)、『天狗の台所 Season3』(10月期)の放送が控えるほか、1~3月に日本公演を終えた舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のロンドン&パリ公演も10月に控える。

特別先行版「鬼平犯科帳 本所の銕/密告」
7月10日(金)公開
監督:山下智彦 脚本:大森寿美男 音楽:吉俣良 原作:池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
出演:松本幸四郎、市川染五郎、尾美としのり、本宮泰風、山口馬木也、駒木根葵汰、山田真歩
配給:日本映画放送 ©日本映画放送
松本幸四郎主演、池波正太郎原作のオリジナル時代劇シリーズ『鬼平犯科帳』の最新作となる第8弾『本所の銕』、第9弾『密告』を、特別先行版「鬼平犯科帳 本所の銕/密告」として劇場公開。『本所の銕』は、原作『密告』で描かれた長谷川平蔵の若き日、銕三郎時代のエピソードに着想を得たオリジナルストーリーで、銕三郎を演じた市川染五郎が主演を務める。続く『密告』では、松本幸四郎演じる平蔵が、銕三郎時代の因縁と向き合う姿が描かれる。
