映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「オールド・オーク」

悲嘆と希望の力学から、コミュニティの連帯を導く

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かつて炭鉱で栄えたイングランド北東部の町に、中東シリアから戦火を逃れた人々がやってくる。古びた地元のパブ〈オールド・オーク〉の常連客たちは、不満を隠さない。自分たちの生活も苦しいのに、寂れつつあるこの町に難民を受け入れる余裕があるのか? 彼らの会話を、人道派であるパブのオーナーTJは、カウンターで作業しながら黙って聞いている。そんな中、カメラを手にしたシリア人女性のヤラがパブを訪れた——。ケン・ローチ監督は新作「オールド・オーク」で、いつものように庶民の物語を力強く描き出す。

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かつて生きることに苦しみ命を絶つ寸前までいったTJ、祖国に残してきた父が気がかりなヤラ(カメラは父から譲り受けたものだ)をはじめ、主要人物であれ少しの登場であれ、大人も子どもも(飼い犬も)忘れ難い存在感を見せる。カメラは主張することなく、過不足ない距離で人々を捉えていく。それが平等であり、いわば強さであるというように。TJやヤラなど心ある人々がコミュニティの連帯に向けて動こうにも、実現は簡単ではない。すると図らずも悲劇が起き、それが彼らの再起に向けたブースターとなる。急な谷の後に、より高い山に挑む、あるいは思わぬ地平が広がる。悲しみと希望を変数とした、魔法の数式というべきドラマ作りの秘密に思いを馳せてみたくなる。葛藤や尽力を重ねながら人々はベクトルの向きを近づけ合い、やがて偉大な合力を生むはずだ。

分断が危惧される世界にあって、ケン・ローチが奇を衒うことなく、まっすぐに投げかけた物語だ。自分
に何ができるか、観る者は問われるだろう。まずはTJとヤラの姿を思い返しながら、近くにある困難や痛みを和らげること。些細なことからでいいはずだ、だから映画を観ることから。

文=広岡歩 制作=キネマ旬報社・山田 (『キネマ旬報』2026年5月号より転載)

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「オールド・オーク」

【あらすじ】
炭鉱で栄えたイングランドの町に、最後まで残ったパブ〈オールド・オーク〉。住民にとっては止まり木のような存在で、店主のTJはどうにか維持してきた。ところが町がシリア難民を受け入れ始めたことで、パブは諍いの場と化す。そんな中でTJは、カメラを持ったシリア人女性のヤラと友情を育むことに。彼らは相互理解の方法を見出せるか──。

【STAFF & CAST】
監督:ケン・ローチ
出演:デイヴ・ターナー、エブラ・マリ ほか
配給:ファインフィルムズ

2023年/イギリス、フランス、ベルギー/113分/Gマーク
4月24日(金)より全国にて順次公開

© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve,
British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023

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