全編どこを切り取っても美しい――四宮義俊監督「花緑青が明ける日に」が描く、失われゆく故郷と未来への希望

第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、アヌシー国際アニメーション映画祭2026ではコントルシャン部門審査員賞を受賞したアニメーション映画「花緑青が明ける日に」のBlu-ray&DVDが9月11日(金)に発売される(レンタルDVD同時リリース)。新海誠監督の「君の名は。」(2016)「言の葉の庭」(2013)などにも参加した日本画家・四宮義俊の長編アニメーション監督デビュー作である本作は、花火をモチーフに、四宮監督ならではの美意識が徹底されたアートアニメ的な美しい画の中で、失われていく伝統への切なさと未来への希望を描いた、瑞々しい青春エンタテインメント。豪華版Blu-ray&DVDには、四宮監督や声優を務めた萩原利久、古川琴音、入野自由らのコメントや各種イベント映像なども収めた2時間を超える映像特典も収録されている。
幼馴染の若者3人が幻の花火を完成させ、打ち上げようと奮闘

長編アニメーション監督デビュー作ながら、ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された本作は、フランスのスタジオMiyu Productionsとの日仏共同製作作品。世界最大規模のアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭2026ではコントルシャン部門審査員賞を受賞し、2024年第77回カンヌ国際映画祭では、Animation Dayのアヌシー・アニメーションショーケースにも選出され、世界的に高い評価を受けた。
タイトルの“花緑青”とは、鮮やかな青緑色をした顔料のこと。かつては絵の具や建築用塗料、壁紙などの着色に使われたが、ヒ素を含むため、現在ではほとんど使用されていない。本作では、花火に美しい青緑色の光を生み出す重要な材料として登場し、物語の鍵を握る。
物語の主な舞台は、豊かな自然の残る神奈川のある地域で、町の再開発により立ち退きを迫られている老舗の花火工場・帯刀煙火店。そこで育った帯刀敬太郎(声:萩原利久)は、ある事件を機に4年前に蒸発した父・榮太郎(声:岡部たかし)に代わり、幻の花火“シュハリ”を完成させようと独りで奮闘していたが、地元の花火大会もなくなり、家業は廃業同然の状態だった。そんな中の夏の終わりのある日、東京で美術大学に通う幼馴染のカオル(声:古川琴音)が地元に戻ってくる。それは敬太郎の兄で市役所に勤める千太郎(声:入野自由)から、明日の立ち退き期限までに敬太郎が家を出るように説得を頼まれたからだった。そうして敬太郎&千太郎の兄弟と4年ぶりに再会を果たしたカオルの幼馴染3人は、失われた時間と絆を取り戻すようにぶつかり合いながらも、強制代執行が迫る中で、花火の完成と打ち上げを巡る驚きの計画を立てることになる……。
美しい花火と三者三様の若者たちに希望を託す物語

豊かな自然に囲まれていた花火工場のそばには、町の再開発でソーラーパネルが敷き詰められ、生まれ育った思い入れ深い花火工場兼自宅と家業の花火も、失われようとしている。知っていた美しい故郷が変貌を遂げていく中、もはや経営の立て直しや状況の改善は見込めないと分かっていても、若者たちは幻の花火“シュハリ”の完成に希望を託す。その鍵を握るのが“花緑青”だ。若者たちは幻の花火を夜空に打ち上げることで、失われゆく故郷と自分たちの未来に向き合おうとする。
本作は、失われていく伝統や故郷の風景をどう捉えるかを考えさせる作品ではあるが、明確な答えを示さない。敬太郎は、変わりゆく故郷にとどまりながら花火を守ろうとし、兄の千太郎は行政の側から町の未来を考えようとする。そしてカオルは、変化を受け入れて外に出て、新たなことに挑戦し、自身の経験や思いを次につなげようとする。本作は、三者三様の若者たちを通して、伝統や故郷の変化をどう考え、行動していくか、その答えを観客に委ねている。
映像特典内で四宮監督は、2016年頃から企画していた本作のアイデアのきっかけとなったエピソードを明かしている。仕事場のアトリエの前にあった原っぱがソーラーパネルに変わり、その景色をどう捉えればいいのかわからずにいたある日、雑木林の隙間から見えるソーラーパネルの列を、子どもが「あれ、海?」と尋ねたという。そこで、かつて地元の海が埋め立てられた風景と、子どもが海と見間違えたソーラーパネルの景色が重なった。子どもの目を通して、変わりゆく日本の風景に新たな見え方が生まれた。四宮監督は、変化を単純にネガティブなものとして捉えるのではなく、そこに自身にとっての意味や発展性を感じ、さらには物語として描けるのではないかと考え、本作のアイデアへとつなげていったという。
本作で長編アニメーション監督デビューした四宮義俊は、東京藝術大学を経て、絵画を軸に立体・映像など多彩な創作活動を行う日本画家。日本画家として培った素材研究をベースに異質なマテリアル同士やジャンル同士を媒介・融合させながら作品を制作し続けており、本の装丁、広告、CMなど各種メディアにも携わる一方で、短編映像作品の監督を務めたり、実写映画やアニメーション映画で美術や特殊シーン演出にも参加している。新海誠監督「君の名は。」では回想シーンの演出、同監督の「言の葉の庭」では背景美術やポスターイラスト、片渕須直監督の「この世界の片隅に」(2016)では劇中の水彩画をそれぞれ担当し、実写映画「天心」(2013)「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」(2014)「HiGH&LOW THE MOVIE」(2016)「パンク侍、斬られて候」(2018)などでは撮影用の美術や絵画を担当するなど、実はこれまでも日本映画に関わってきている。
萩原利久&古川琴音ら声優陣の豊富なコメントも収録した制作の裏側にも迫る2時間超えの映像特典

四宮監督が作画監督と美術監督を共同で務めた本作は、こだわりの背景美術とキャラクターが一体化し、約75分にわたる本編全編が、美しい水彩画のような色彩に彩られ、圧倒的な映像美を堪能できる。四宮監督は映像特典内で「キャラクターを割と平面的に描き、その背景の植物や世界を緻密に描く東洋絵画のバランスがすごく好きで、人間・キャラクターというのは何かを表現するための器・入れ物でしかなく、その心情を語っているのは背景に表現されていたりする」「密度のある背景・植物・家の中というものが、キャラクターの心情をそのまま表現していたり補強するような形で、背景がキャラクターを補っている」と、本作での映像表現の狙いを明かしている。
また、一部にはフランスのスタジオMiyu Productionsによるストップモーションアニメや実写も活かし、国際的なスタッフも起用して多様な表現も取り入れている。日本画家ならではの構図や色彩の美しさなどの絵画的表現を駆使したアートアニメのような画作りに、日本ならではのアニメーションの手法とエモーショナルな物語が融合。美しいだけでなく、画にも物語にも豊かな躍動感と起伏がある、独創的なアニメーション映画となっている。そして、ラストを彩る主題歌「青葉」は、2000年生まれで主人公と同世代のアーティスト、imaseが本作のために書き下ろした新曲。青春と人生をビターに綴った楽曲が物語に寄り添い、作品を心地よく締めくくっている。
9月11日(金)にリリースされる豪華版Blu-ray&DVDには、これまで紹介してきた四宮監督のコメントの他にも、ベルリン国際映画祭レポートや舞台挨拶などの各種のイベント映像や撮りおろしインタビューなど、2時間を超える映像特典も収録。初の声優を務めた萩原利久と古川琴音は、慣れないアフレコに苦戦しつつも、四宮監督と入念に話し合い、時間をかけて演じたことや、作品への思い入れの深さを熱く語っている。四宮義俊監督の作品展でのライブドローイングの模様や、フランスのスタジオMiyu Productionsのスタッフとのトークイベントでストップモーションアニメのパートの制作秘話なども明かされており、本編だけではなく、こうした映像特典を通して制作の背景を知ることで、「花緑青が明ける日に」の世界をさらに深く味わうことができるだろう。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)
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「花緑青が明ける日に」
●9月11日(金)Blu-ray&DVD発売
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●Blu-ray 豪華版 価格:8,580円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像(約158分)
★映像特典★
●萩原利久・入野自由・四宮義俊監督 ベルリン国際映画祭レポート
●萩原利久・古川琴音 アフレコインタビュー/メイキング
●萩原利久・古川琴音 撮り下ろしインタビュー special talk
●四宮義俊監督 Animation Day用WIPインタビュー
●舞台挨拶集(ジャパンプレミア・公開記念舞台挨拶・公開後舞台挨拶)
●特報映像/予告編
●四宮義俊監督<ほぼ日曜日 映画『花緑青が明ける日に』展+日本画家・四宮義俊の作品展>
ライブドローイング/トーク with ヴィクトル・アジュラン 映像協力:ほぼ日 HOBONICHI
★封入特典★
・四宮監督描き下ろしイラストによるアウターケース仕様
・ポストカード
●DVD 豪華版 価格:7,480円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編(DVD)
★特典映像★
・『Blu-ray 豪華版』と同様
★封入特典★
・『Blu-ray 豪華版』と同様
●2026年/日本/本編76分
●原作・脚本・監督:四宮義俊
●主題歌:imase『青葉』(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
●キャラクターデザイン:うつした(南方研究所)四宮義俊
●作画監督:四宮義俊 浜口頌平
●美術監督:四宮義俊 馬島亮子
●音楽:蓮沼執太
●出演:萩原利久 古川琴音 入野自由 岡部たかし
●発売・販売元:TCエンタテインメント
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