コリン・ファースは碇ゲンドウ? 宇宙人はリンカーン? 「ディスクロージャー・デイ」をめぐって3人の批評家が語り合う

10月1日(木)、ついに日本公開を迎えた「ディスクロージャー・デイ」。スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作とあって、すでに劇場に足を運んだ人も多いだろう。観客の目に、この映画はどう映ったのだろうか。 「地球には昔から宇宙人が来ており、アメリカ政府はその事実を隠し続けていた」――そんな、荒唐無稽との声も上がりそうな設定と展開に、面食らった人もいるかもしれない。

『キネマ旬報』本誌で恒例となっている、ふたりの批評家、南波克行と西田博至の対談企画。これまでさまざまな作品や映画人をテーマに語り合ってきたが、なかでも繰り返し取り上げられてきたのが、二人がいわばライフワークとして論じてきたスピルバーグの作品だ。

発売中の『キネマ旬報』10月号では、「ディスクロージャー・デイ」が公開にあわせ、評論家・佐々木敦を加えてのオンライン座談会が行なわれた。スピルバーグはこの作品で何を訴えかけようとしたのか? 「読者代表」の気持ちで参加したという佐々木の視点も加わり、3人の軽妙な話芸で展開された議論の話題は多岐にわたった。

封切りを記念し、当WEBでは文字数の関係で本誌記事から削除せざるをえなかった膨大な対話のなかから、ごく一部を以下にご紹介しよう。ネタバレを含むため、気になる方は映画を観てから読むことをお勧めしたい。それでは、どうぞ!

「ディスクロージャー・デイ」あらすじ

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■2026年、第三次世界大戦の危機が迫る中、サイバーセキュリティ専門家のダニエル(J・オコナー)は、政府系秘密企業ワーデックス社から地球外生命体に関する極秘ファイルを盗み出す。一方、気象キャスターのマーガレット(E・ブラント)は、ある日突然謎の能力に目覚め、未知の言語を話し始める。やがて合流したふたりは、自分たちが幼少期に異星人との関わりをもっていたことを知り、そのことを世界に開示するため、決死の奔走を繰り広げる。

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左から佐々木敦、南波克行、西田博至

裏切り者こそが世界をひっくり返してくれる

南波 「ディスクロージャー・デイ」を観ながら気になったのは、今回、主人公と敵対する側に、主人公の味方がいないことなんです。「未知との遭遇」(1977)だったらUFO学者のフランソワ・トリュフォーがいた。「E.T.」(1982)だったら“鍵の男”ことピーター・コヨーテがいた。ところがワーデックス(UFO関連情報の保護・管理を行う架空の米国政府系組織)には、陰ながら見守る主人公の理解者がいない。
でも考えてみたら、機密情報を盗み出そうとするコールマン・ドミンゴとジョシュ・オコナーは、ワーデックスを裏切った人たちなんですよね。これも僕、スピルバーグ論で何度も書いていることなんですが、救いは結局敵の側からやってくるんです。「ジュラシック・パーク」(1993)でいえば、自分たちをバクバク食べていたティラノサウルスが最後に助けてくれる。裏切り者こそが世の中をひっくり返してくれるってことに、相変わらずスピルバーグは期待を託しているのかなと思いました。

佐々木 ワーデックスのリーダーのコリン・ファースも、最後には改心しますね。

南波 あれは僕ちょっとわかんなくて。改心してるんでしょうか、あれって。むしろ諦めちゃってる感じが。

佐々木 人類のためというよりは、自分と自分が愛した人との記憶のためという感じですね。亡くなった奥さんの姿を、エミリー・ブラントの能力によって幻視させられた結果そうなる。地球全体という大きなものと、個人の小さな関係性、愛と信頼みたいなものとが天秤にかけられているわけです。ある種「セカイ系」っぽい話になりますけれど。


「ディスクロージャー・デイ」はセカイ系?

西田 最後にスタジオで、コリン・ファースが椅子に座ってエミリー・ブラントを見ていますよね。彼にはあれがエミリー・ブラント演じるマーガレットに見えてるのか、亡くなった愛妻に見えてるのかっていうのが、僕はすごい気になっています。どっちでもあり得るんだけど、なんかこれ、「エヴァンゲリオン」みたいだなって。つまり、途中からコリン・ファースが、ほとんど碇ゲンドウに見えてきたんですよね(笑)。そう考えると佐々木さんの「エヴァンゲリオン」論である『成熟の喪失 庵野秀明と“父”の崩壊』にも接続して論じることができる映画だなと思いました。

南波 言ってみれば、人類補完計画だもんね、あれ。

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西田 そうなんですよ。コリン・ファースが謎の組織率いて暗躍してるのは、死んだ妻と再会したいからなの?!って(笑)。妻とまた会いたいとか、今朝喧嘩して出てきた家族の本心を知って、はっと動きが止まるとか、こういう、すごいちっちゃい個人の隠された経験を、スピルバーグは丹念に重ねて、暴力にさらされてきた宇宙人への共感とか世界平和への祈念とかにいきなり接続する。アメリカの80歳の老監督が2026年に突然ゼロ年代の「セカイ系」をやってるとも言える。

佐々木 この映画に完膚なきまでの悪人が出てこないのも、それと関係していますよね。どんな悪人でも妻のことを愛していたり、ある人たちにとってはたいせつな人だったりするわけですから。こっちとしては、いやいや、そんなことで全然免罪なんかできないよとも思うわけですけれど。
だから僕は、これはしゃべってても自分ですごく微妙に思うのですが、スピルバーグにはそういう優しさみたいなものを感じます。ほんとうの悪人はいないというのも、結構この映画のメッセージのひとつではないかなと思いました。

南波 そうですね。だからこそ話し合わなきゃいけないということだと思います。スピルバーグの映画にはしばしば外国語、理解できない言語をあやつる存在が登場し、すると必ず通訳という存在も登場します。今回は(宇宙人からの)メッセンジャーというかたちで、エミリー・ブラントとジョシュ・オコナーがその任にあたるわけですけれど。AとBをつなぐ媒介者がいることにより、AとBの両者ともを成り立たせる。

西田 今回のエミリー・ブラントって、翻訳する人とされる人の両方がひとりのなかにいるわけじゃないですか。謎の言葉をしゃべってしまう自分と、それが理解できない自分とがいる。いつもだったら二人に分かれているのが彼女ひとりのなかに圧縮されているというのは、その意味で面白いですね。

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ラストシーンに登場する巨大な宇宙人に秘められた意味

南波 突っこまれそうなポイントがこの映画にはいくつかありますが、そのひとつに、「ラストであんなに赤裸々に宇宙人を出しちゃっていいの?」というのがありますよね。わたしはですね、見た瞬間ピンと来てしまったのですが、明らかにこれはもう、ワシントンDCにあるリンカーンの座像ではないかと思ったんですよ。椅子に堂々と座っている姿勢もそうですし、映像のなかで解剖されている宇宙人はあんなに小さかったのに、なんでいきなりこんな大きいのが出てきたのかというのもそうですし、しかもこの宇宙人が登場するとき、コールマン・ドミンゴがバーッと覆いを払うのが、何かの除幕式みたいじゃないですか。
リンカーンというのは、右左関係なく、アメリカ合衆国における民主主義の象徴のような人です。それがどどーんと宇宙人に姿を変えて、生き姿として出てきたというのは、ちょっと驚くべき瞬間でした。いろいろなものを忘れてしまっているアメリカ人に対して、帰ってくるべき場所、いちばん大事なものはこれだと、そういったメッセージを打ち出しているように思いました。

佐々木 それはすごい話ですね。

西田 でも南波さん、あれがリンカーンだとしたらこのあと暗殺されますよ(笑)。

南波 さすが西田さん、よくおっしゃってくれた。まさにそのとおりで、そういったものを見せたとしても、アメリカはまた同じような過ちを何度でもやりかねないぞ、と言いたいのかも知れません。とはいえ、「これリンカーンですね」とスピルバーグに言ったとしても、「よくわかってくれたね、南波くん」と言ってくれるとは絶対思えないんですけれども(笑)。
暴論ついでに、だからなんだという話なんですが、スピルバーグ作品で宇宙人に遭遇する俳優って、「未知との遭遇」のリチャード・ドレイファス、「E.T.」の男の子ヘンリー・トーマス、「宇宙戦争」(2005)のトム・クルーズ、そして今回のジョシュ・オコナー、全員左利きなんですよね。これすごい共通項です(笑)。

(取材・文=篠儀直子)

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2026年10月号№1992

本誌記事ではほかに、スピルバーグ作品中での「ディスクロージャー・デイ」の位置づけ、「エミリー・ブラントは“スマホになった女”である」説、「メッセンジャーはなぜアメリカ合衆国在住の白人だけなのか?」といった典型的な批判に対する3人の回答など、多彩で刺激的な議論が展開されている。ぜひそちらもチェックしてほしい。

「ディスクロージャー・デイ」

監督・原案:スティーヴン・スピルバーグ 
脚本:デイヴィッド・コープ 
音楽:ジョン・ウィリアムズ 
撮影:ヤヌス・カミンスキー 
編集:セーラ・ブロシャー、マイケル・カーン 
出演:エミリー・ブラント、ジョシュ・オコナー、コリン・ファース、イヴ・ヒューソン、コールマン・ドミンゴ
DISCLOSURE DAY/2026年/アメリカ/2時間25分
© Universal Studios. All Rights Reserved.  
配給:東宝東和 ◎10月1日(木)より全国にて

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