20年の時を超えて届いた一通の手紙——奇跡の実話から生まれた映画「人はなぜラブレターを書くのか」

2000年に不慮の事故で亡くなった高校生。その家族のもとに、20年の時を経て、かつて彼に想いを寄せていた女性から一通のラブレターが届いた。そんな奇跡のような実話を基に生まれた映画、「人はなぜラブレターを書くのか」。
綾瀬はるか、當真あみ、細田佳央太、妻夫木聡、菅田将暉、佐藤浩市らが出演し、石井裕也が監督・脚本を手掛けた本作は、人の想いのつながりを感動的に描き、世代を問わず見てほしい作品となっている。その豪華版Blu-rayとDVDが10月7日(水)に発売(DVDレンタル同時リリース)され、豪華版Blu-rayには、撮影の裏側を知ることができるメイキングやイベント映像集などの特典が収録されている。
奇跡の実話とフィクションを織り交ぜた物語
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2000年3月8日に発生した地下鉄線脱線事故により、5人の乗客が犠牲となり、その中に当時高校生だった富久信介さんがいた。そして2020年、信介さんのご家族宛てに一通のメッセージが届く。それは、毎朝、信介さんと同じ時間、同じ車両で通学し、彼にひそかな想いを寄せていた女性からで、彼が通っていたボクシングジムに送られてきたものだった。そこには、ご家族も知らなかった信介さんの姿がつづられており、20年越しに息子の成長を目の当たりにしたご家族を喜ばせたという。
さらに信介さんは、世界チャンピオンを目指すボクサーにも力を貸していた。この奇跡のような実話は、新聞やテレビ番組でも取り上げられ、その新聞記事を読んだ石井裕也監督は、自身が信介さんと同世代だったことからも他人事とは思えず、信介さんのご家族や関係者の協力を得て、映画化することになったそうだ。
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古民家ダイニングを営む寺田ナズナ(綾瀬はるか)は、夫の良一(妻夫木聡)と娘の舞(西川愛莉)と千葉県で暮らしていた。娘には言えない秘密を抱えたナズナは、ある日、とある青年に手紙を書き始める。それは24年前、横浜に住んでいた17歳のナズナ(當真あみ)が、いつも同じ電車で見かけ、ひそかな想いを抱いていた高校生・富久信介(細田佳央太)宛てだった。しかし、進学校で勉強しながらボクシングジムにも通い、プロボクサーを目指していた信介は、2000年3月8日の地下鉄線脱線事故で亡くなっていた。
信介の通っていたボクシングジムを通して、ナズナからの手紙を受け取った信介の父・隆治(佐藤浩市)と母・晴子(原日出子)は、亡くなった息子の生きた証を確かに感じるとともに、知りえなかった信介の在りし日の姿を知ることになる。そして、隆治はナズナ宛てに手紙をつづる。愛する者を亡くして生き続けた隆治とナズナとの邂逅により、24年前の真実と、ナズナが手紙を書いた理由が明らかになっていく……。

この物語には、二つの大きな軸がある。地下鉄線脱線事故で亡くなった富久信介さん宛てに、20年を経て、かつて想いを寄せていた女性からメッセージが届いたこと。そして、ボクシングに打ち込んでいた信介さんが、劇中では菅田将暉が演じている実在のプロボクサー・川嶋勝重と親交が深く、世界タイトルマッチで川嶋が信介さんの想いも背負って戦っていたことなど、信介さん側にまつわる物語は、事実を基にしている。
一方、もう一つの軸となっている主人公ナズナ側の物語については、あくまで石井監督の創作である。信介さんに想いを寄せていた女性が、亡くなっていることを知りながら20年後になぜメッセージを送ったのかに興味を持った石井監督は、間接的にその女性に理由を尋ねたそうだが、ご本人の意向で明かしてもらえなかった。そこで女性側の部分を創作させてほしいとお願いしたところ、信介さんとそのご家族のためになるのならと承諾を得た上で、フィクションを交えることになったという。そうして、なぜ女性が信介さん宛てにメッセージを送ったのかという物語を創作していく中で感じた想いが、今回のタイトルに込められているようだ。
時を超えてつながる想いが、生きる希望を照らす
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事実と創作を織り交ぜつつ、現在と過去も入り混じる物語は、かなり複雑な構成なのだが、脚本・編集も務めた石井監督の手腕により、時制の混乱もなく、わかりやすく見ることができる。ナズナの抱える現在の葛藤、ナズナの夫と娘との家族の物語、17歳の頃の回想などが描かれていく中、ナズナを通して語られる信介と、信介の父の手紙を通して知る彼の姿もつづられていく。
ボクシングを通してつながっていた信介と川嶋の交流や、川嶋の世界戦もかなりのボリュームで描かれるが、バラバラに思える出来事がうまく絡み合い、誰もが誰かに何かの影響を与え、すべての出来事や想いが時間を超えてもつながっていると思わせてくれる作品となっている。
また、本作は夕方や深夜から早朝にかけても印象的なシーンが多い。劇中の深夜、ナズナが娘に「深夜のこの時間って、不思議だよね。会えないような人に会えるような時間が続くでしょ」と語るとおり、昼でも夜でもない曖昧な時間が、生と死の境界線も曖昧にして、神聖な雰囲気を漂わせる。
そんな死の匂いもところどころに漂う物語を描いてはいるが、最終的に浮き彫りになるのは、生きることの尊さなど、生の輝きである。悲しみの中にも生きる希望が感じられ、誰もがいつ亡くなるかわからないからこそ、悔いなく一生懸命に生きようと思える作品だ。

キャスト陣には、役にリアリティーを与えてくれる、石井監督が信頼する実力派の俳優たちが揃う。主人公のナズナを演じる綾瀬はるかは、初めて組む石井監督とも感覚的に深い理解を示し合ったそうで、明るく誰からも好かれる女性でありながら、ある葛藤を抱えた姿を好演している。
そして、ナズナの夫役に妻夫木聡、信介の父親役に佐藤浩市という石井組の常連に加え、初主演映画「町田くんの世界」(2019)で石井監督と組んだ細田佳央太も脇を固める。また、石井組初参加の菅田将暉がプロボクサーの川嶋役を演じるほか、若き日のナズナ役に當真あみ、ナズナの娘役に西川愛莉という注目の若手女優たちも出演する。
石井裕也監督の演出とキャストの舞台裏に迫る、充実のメイキング

10月7日(水)にリリースされる豪華版Blu-rayには、メイキング、イベント映像集、トレーラー&SPOT集などを収録した映像特典ディスクと、カラーブックレットが封入される。約55分のメイキングでは、石井監督の演出風景とともに、キャスト陣のコメントも収録。撮影現場での石井監督は、テスト(リハーサル)を重ねて演者と対話しながら、互いの意見やアイデアを生かし、丁寧に芝居を固めていく。
そんな石井監督の演出について綾瀬は、役者の芝居を細かく見てくれているので、ちょっと役とのチューニングのようなものが切れた瞬間も見逃さず、鋭く指摘される緊張感が心地よく、楽しかったと振り返る。
ナズナが夫と娘と3人で大事な話をする長いシーンでは、前日にリハーサルを行った上で、撮影当日は細かい確認のみで本番に臨んだという。脚本で約6ページ分、約11分に及ぶシーンを長回しで3テイク撮影。この場面について妻夫木は「綺麗ごと抜きで、家族っていいなと思った」と語り、本作で最も印象深かったシーンに挙げている。
過去パートでも、石井監督は當真や細田ら若い俳優たちに細かく演出し、彼らの考えを引き出しながら芝居を固めていく。當真も、芝居についての会話を大事にしてくれて、一緒に感情を整理しながら撮影できたと、監督とのやり取りを振り返った。
さらに、ギリギリで電車に乗り遅れた信介に、若き日のナズナがドア越しに話しかける場面では、劇中では伏せられていた言葉も明かされる。車両基地内の止まった列車を使い、走る列車内のシーンを撮影する工夫なども紹介され、映画が完成するまでの創意工夫を垣間見ることができる。
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そして、本作の大きな見どころの一つである、本格的なボクシングシーン。その撮影現場の裏側が明かされているのも興味深い。本作のボクシング指導を務める松浦慎一郎は、元ボクシングトレーナーの経験を生かして、数々の映画やドラマなどでボクシング指導も行う俳優。本作では、信介が部活で対戦する相手のトレーナー役としても出演している。
ボクサー役には、杉田雷麟や渡辺光などのボクシング経験者を起用。迫真のファイトシーンを支えるため、細田は約4か月間、週4~5日のボクシング練習に励み、約6kg増量した上で約5kg減量するなど、身体を作り込んだ。「ボクシングの練習は楽しかったけど、食事制限が辛かった」と、その苦労も明かしている。
また、主演映画「あゝ、荒野」(2017)でボクサー役を経験した菅田将暉は、「(ボクサー役は)もう二度とないと思っていた」「今回は世界チャンピオン役なので、一世一代の大勝負」と、並々ならぬ覚悟を吐露。
信介の悲報を知って菅田演じる川嶋が感情を爆発させるシーンでは、感情が昂りすぎて少し関西弁が出てしまったことを指摘され、菅田自身も驚く一幕が。そのテイクは、実際に本編でも採用されているという。
さらに、ボクシング世界戦の再現には300人のエキストラが集結し、カメラクレーンも駆使した迫力のあるカットを撮影。練習中に何度か鼻血を出しても気にせず、いいパンチが実際に当たっても経験値として取り込む菅田の姿に、松浦も「菅田君は燃えてました」と証言する。
水抜きによる減量の辛さを実感するほど追い込み、ボクシング技術も身体も仕上げた菅田。クランクアップ時には「(世界チャンピオン役なんて)もう一生できません。最初は断ろうとしていたけど、やってよかった」と、確かな手応えを口にした。石井監督の現場での演出方法から、俳優たちが役と向き合う姿、本格的なボクシングシーンの舞台裏までを収めた、見応えのあるメイキングとなっている。
本作はラブストーリーを思わせるタイトルだが、描かれるのは恋愛だけではない。人間愛や家族愛なども描いた、普遍的なヒューマンストーリーだ。「人はなぜラブレターを書くのか」という哲学的な問いかけに、明確な答えが用意されているわけではない。だからこそ、見る人それぞれに異なる思いを抱かせるのだろう。世代や性別を問わず、誰もがそれぞれの受け取り方で、胸に深く刻まれる映画となっているはずだ。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社・制作部(山田)

「人はなぜラブレターを書くのか」
●10月7日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●豪華版Blu-ray(本編Blu-ray&特典DVD) 価格: 7,700円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+特典映像(121分)
★特典映像★
・メイキング
・イベント映像集
・トレーラー&SPOT集
★封入特典★
・カラーブックレット
●通常版(DVD) 価格:4,400円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編
●2026年/日本/ 121分
●監督・脚本・編集:石井裕也
●主題歌:「エルダーフラワー」Official髭男dism(IRORI Records/PONY CANYON)
●キャスト:
綾瀬はるか 當真あみ 細田佳央太 / 妻夫木聡
音尾琢真 富田望生 西川愛莉 / 菅田将暉
笠原秀幸 津田寛治 原日出子
佐藤浩市
●発売・販売元:VAP
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会
