観る者の心をそっと静かに照らす、聖なる記憶にふれる映画体験、映画「ぼくのお日さま」

第98回キネマ旬報ベスト・テンにて、助演男優賞(池松壮亮)、新人男優賞(越山敬達)、新人女優賞(中西希亜良)をトリプル受賞。第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、国内外の映画祭を席巻した話題作「ぼくのお日さま」のBlu-ray&DVDが、8月2日にリリースされた。

本作は、田舎町のスケートリンクを舞台に、吃音で言葉がうまく出てこない少年タクヤ、氷上で美しく舞う少女さくら、そして彼らを見守るスケートコーチ・荒川の3人の心が交差し、ほどけていく様子を繊細に描いた、小さな“再生”の物語である。

監督・脚本・撮影・編集を手がけたのは、長編デビュー作「僕はイエス様が嫌い」でサンセバスチャン国際映画祭《最優秀新人監督賞》を受賞した、奥山大史監督。是枝裕和監督にもその才能を高く評価された俊英が、長編2作目にして、静かで確かな歩みで到達したのが、この映画である。子どもの頃、フィギュアスケートを7年習っていた経験があり、「いつかそれを映画にしたい」と考えていた奥山監督。ハンバート ハンバートの楽曲『ぼくのお日さま』を聴きながら本作の脚本を書いていたことから、「これを主題歌にしないわけにはいかない!」と、みずから思いを込めて手紙を書き、ハンバート ハンバートの問い合わせフォームからアクセスして依頼。その手紙を読み主題歌とタイトルへの使用を快諾した佐藤良成が、本作の音楽も手がけている。

凍った心に小さな火を灯すように

舞台は、冬になると雪に閉ざされる田舎町。小学校に通う男の子たちは、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に忙しい。6年生のタクヤは、野球もホッケーも苦手で、ことばもうまく出てこない。スケートリンクに響くドビュッシー『月の光』に、タクヤの心が震える瞬間から、物語は動き出す。彼が目にしたのは、無言で氷上を舞う少女さくらの姿。そこに言葉はなくとも、確かに何かが届いた。そんなタクヤの“初期衝動”こそが、物語の火種となり、コーチをつとめる荒川の心の奥底で凍りついていた感情さえも、少しずつ溶かしていく――。

Blu-ray&DVDには、これらの撮影の裏側に迫るメイキング映像『Making of ぼくのお日さま ―聖なる記憶にふれる―』を収録。映像のなかには、奥山監督の思考のプロセスや現場の温度、池松・越山・中西らキャストとのやり取りが赤裸々に綴られており、「なぜこの映画がこんなにも深く心に届くのか」が映像として解き明かされる。

主演を務めた越山敬達は、現在公開中の映画「国宝」でも横浜流星扮する歌舞伎界の御曹司「俊介」の少年時代を演じて話題沸騰中だが、驚くべきことに中西希亜良は、本作で初めて演技に挑戦したという。中西は、実際のスケートリンクに貼られていた「ヒロイン募集」の張り紙を見て応募し、オーディションを経て抜擢された。彼女がスケートをしている姿そのものが、「さくらに見えた」と奥山監督は語る。一方の越山は、当時すでに事務所に所属しており、「スケート経験者」としてオーディションに参加したものの、スケートがそこまで得意であることをあえて主張しなかったという。その奥ゆかしさに、監督は「タクヤと通じるものを感じた」と語っている。

ふたりの子役に対して監督が採ったのは、何よりも“即興性”を大切にする手法だった。事前に台本を渡さず、場面ごとに演出の意図を口頭で伝えるが、セリフをそのまま反復させるのではなく、たとえば「ありがとう」というセリフでも、「お礼を言ってみて」とだけ伝え、子どもたち自身が考えた言葉で演じさせた。そのアプローチが、画面にあらわれる表情や所作に、驚くほどのリアリティを与える結果につながった。

共演する池松壮亮もまた、物語の「背骨」となった人物のひとりである。池松は本作で、スケートコーチ・荒川を演じるにあたり、フィギュアスケートを一から習得。最初は「リンクの上に5秒立つのがやっとだった」というが、半年に及ぶトレーニングの末、自然な動きで指導する姿を見事に手に入れた。撮影初日、物語の象徴ともいえる湖畔のシーンに臨んだ彼は、メイキング映像で「責任重大だなと思いました」と語っているが、その言葉は、本作の撮影を通じて池松のなかで「役者の先輩として後輩を育てたい」という親心が芽生えることになるのを、予言するかのようでもあった。

誰も見たことのない“画”を求めて

奥山監督の映画は、“言葉”ではなく“映像”で語ることを信じて撮られていることが、わずかなシーンを見ただけで伝わってくる。撮影監督出身である彼は、本作でも一枚一枚がまるで写真のような美しさを持つ構図を追求。自身の特徴だと感じているのは、「シンメトリー」「日の丸構図」そして「存分な余白」だと分析する。監督は、iPhoneのアングルファインダーアプリを使って構図を練り、カメラ位置を微調整した上で、フィギュアスケートの動きに全身で寄り添うため、監督自らスケート靴を履き、カメラを担いで、役者と共にすべりながら撮影を行うという、前代未聞の手法に果敢に挑戦。メイキング映像には、その奇跡のような瞬間も、多数収められている。

なかでも印象的だったのは、スケートリンクに差し込む光の美しさ。もともと遮光のために貼られていたカラーダンボールにインスピレーションを得て、「さくらの未来を祝福するように見えたら」と、色のついたパネルをステンドグラスのように窓に貼ったり、シーンにあったカラーフィルターを付け替えたりして照明を設計したという。

豪華特典が詰まった「聖なる記録」

本商品には、主演の越山敬達・中西希亜良・池松壮亮、奥山監督によるオーディオコメンタリーをはじめ、ジャパンプレミア、日本外国特派員協会での記者会見、日本大学芸術学部でのティーチイン、作家・又吉直樹×音楽担当・佐藤良成(ハンバート ハンバート)×奥山監督によるスペシャルトーク映像、さらには劇場上映時に話題となったマナー映像や予告編4種を収録。作品の魅力をより深く味わうことができる、まさに「豪華版」と言える充実した内容となっている。加えて、名場面をモチーフにしたステッカーシートの封入、スリーブケース仕様のパッケージもファンには嬉しいポイントだ。

また、もうひとつの特典映像『ぼくのお日さま 渡航記 ―はじめてのカンヌと生牡蠣と―』では、第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出され、フランスを訪れた監督とキャストの姿が収められている。はじめての海外映画祭に参加し、“生牡蠣”に触れた緊張と歓喜に満ちた旅の様子が、ユーモアと誠実さをもって記録されており、その映像を目にするだけで一片の映画を観たような、あたたかい気持ちになる。

メイキング映像のなかで、「『その痛み、自分もわかるよ』と寄り添ってくれるような映画にしたかった」と、奥山監督は語る。「あと一つピースがハマれば完成するという時に、突然誰かにパズルを踏み荒らされてしまうような痛みを描きたかった。でもそのとき、『もう一度作り直そう』でもいいし、『せっかくなら違うパズルを作ってみよう』でもいい。そう思える力になれたらいい」と。

映画とは、記録であると同時に、記憶でもある。池松壮亮も語っているが、「ぼくのお日さま」は、観る人それぞれの“聖なる記憶”にそっとふれる、優しくて強い一本だ。この感動を、まだ一度も観たことのない人はもちろんのこと、映画館の暗闇でこの映画と出合い、タクヤがさくらのスケートを見た時と同じように、心を震わせた誰かにも届けたい。「ぼくのお日さま」のBlu-ray&DVDで、再びその灯火に出会ってほしい。

 

文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社


「ぼくのお日さま」

●8月2日(土)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

●Blu-ray 価格:6,600円(税込)
【ディスク】
★特典映像★
・オーディオ・コメンタリー(越山敬達・中西希亜良・池松壮亮・奥山大史)
・メイキング2種
・イベント映像集
・劇場マナー講座
・予告編4種

★封入特典★
・ステッカーシート


●DVD 価格:5,500円(税込)
【ディスク】
★特典映像★
・オーディオ・コメンタリー(越山敬達・中西希亜良・池松壮亮・奥山大史)
・メイキング2種
・イベント映像集
・劇場マナー講座
・予告編4種
★封入特典★
・ステッカーシート

●2024年/日本/本編90分+特典映像154分
●監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
●音楽:佐藤良成(ハンバート ハンバート)
●主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」

●出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、山田真歩、潤浩、若葉竜也

●発売・販売元:マクザム
© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会 / COMME DES CINÉMAS

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