映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「ナースコール」

多忙な医療現場を看護師の視点から見せる

自分や家族、あるいは知人が入院したとき、一番痛切に願うのは「医師や看護師とゆっくり話したい!」ということだ。スイスのペトラ・フォルペ監督が手掛けた「ナースコール」は、病院で働く医療関係者が「なぜそんなに忙しいのか」を、ある看護師の過ごす1日を通して伝える。
主人公は経験豊かで誠実な看護師フロリア。出勤した瞬間から息をつく間もなく、仕事をこなしていく。各部屋を回っての検温、血圧や痛みの確認。ナースステーションに戻っての点滴や鎮痛剤の準備。注射器を使うことも多く、見ているほうがヒヤヒヤしてしまうが、ベテランらしく見事な手際を見せる。彼女を消耗させるのは、むしろ、患者たちとのやりとりで、顔見知りの患者の病状を医師の許可なしには伝えられなかったり、高額の保険を利用する個室の患者から心ない言葉を浴びたりするなかで、ペースを乱していく。その姿を見ながら「もし、自分が入院患者や家族だったらどんなふうに振る舞うだろうか」と考えずにはいられない。年齢、性別、背景の異なる患者たちのキャラクターを無理なく織り込みながら、緊張感を持って話を進めていく脚本がすばらしい。フロリアは患者たちのためにあわただしい時間を過ごすが、心癒やされる瞬間を与えてくれるのも患者たち、というところにほっとする。

フロリアに扮しているのは、「ありふれた教室」(23)、「セプテンバー5」(24)のレオニー・ベネシュ。患者や家族に優しく声をかけながらも、ときに毅然とした態度を見せる彼女の魅力が映画を牽引している。高齢化の進む日本で医療現場の人手不足が叫ばれるようになって久しいが、医療先進国というイメージのあるスイスもこのような状況に至っているのかと改めて驚かされる。
文=佐藤結 制作=キネマ旬報社・山田 (『キネマ旬報』2026年3月号より転載)

「ナースコール」
【あらすじ】
スイスの州立病院で働く看護師フロリア。遅番のシフトに入った彼女は同僚の病欠を知り、いつも以上に多忙な1日を予感する。早番の担当者からあわただしく引き継ぎを受け、手術を予定している患者を手術室に移動させようとするが、彼はスマホを手に仕事の連絡をやめようとしない。その後、フロリアは病室を巡回し、患者たちの様子を確認していく。
【STAFF & CAST】
監督:ペトラ・フォルペ
出演:レオニー・ベネシュ、ソニア・リーゼン、セルマ・ジャマール・アルディーン ほか
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
スイス・ドイツ/2025年/92分/Gマーク
3月6日(金)より全国にて順次公開
© 2025 Zodiac Pictures Ltd / MMC Zodiac GmbH
